オートファジーを維持する=病気にかかりにくくなる

一方、老化を食い止められるからといって、食い止める必要があるのかというのは非常に重要な問題です。「老化は自然なのにそれに逆らうのか」「ちょっと不自然では」などいろいろ意見はあると思いますが、今、日本では寝たきりや認知症が非常に増えています。医療費の国家財政の圧迫も社会問題になっています。

解決策としては、死ぬ間際まで元気でいてもらうしかありません。医療費の問題を抜きにしても、誰だって寝たきりで生きたくないです。大半の人は本音では健康で長生きしたいはずです。

老化の最大の特徴はさまざまな病気にかかりやすくなることです。当然、重症化しやすくなりますし、死亡率も高まります。私は今、健康寿命を寿命に近づけることで老化を食い止められないかと研究を進めています。オートファジーによって健康寿命が延びるということは高齢になっても病気にかかりにくくなることでもあります。

哺乳類の場合は老化すると必ず病気になります。それならば、オートファジーの低下をもたらすルビコンを抑えることが病気の防止につながるのではと考えて、いろいろと実験してきました。結論からいいますと、ルビコンを抑えてオートファジーを維持すると加齢に伴ってかかりやすい病気にかかりにくくなることがわかってきています。

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加齢性疾患への免疫力がつく

加齢に伴ってかかりやすい病気を「加齢性疾患」といいます。

例えば、認知症の原因となるパーキンソン病や高齢者の失明原因として最も多い加齢黄斑変性、骨折しやすくなる骨粗しょう症などがあります。いずれも現代人にとっては身近な病気で、おそらく、みなさんの周りにも苦しんでいる方はいるでしょう。

オートファジーを低下しないようにしたマウスの実験では、実際にこれらの加齢性疾患にかかりにくくなる結果が出ています。あくまでもマウスの実験ですが、同じ哺乳類ですので、人間の場合でもオートファジーを活性化することで、加齢性疾患を抑えることにもつながる可能性がきわめて高いでしょう。

「病気にかかりにくくなるなんて本当かな」と半信半疑の人もいると思いますので、いくつか例を挙げます。

免疫力について

オートファジーは免疫力を上げてくれます。細胞内に侵入してきた病原体を捕捉ほそくして分解できますし、ウイルスなどの病原体に対する抗体を作る免疫細胞や病原体を殺す免疫細胞の能力の維持に働いています。ただ、高齢者になるとオートファジーが低下するため、そういった免疫力が弱まります。

そうなると感染症に弱くなり、肺炎などの炎症が命の危機にもつながりかねません。ワクチンも効きにくくなります。老化した人間の抗体をつくる細胞に、納豆などに含まれるスペルミジン(オートファジーを活性化させる成分)をかけたところ、オートファジーが亢進こうしんして、抗体をつくる力が回復したという実験もあります。