「ルビコン」をなくしたら、寿命が20%も延びた

つまり、整理すると「オートファジーがないと延びていた寿命が縮んでしまう」「オートファジーは歳をとると減ってしまう」ということがわかりました。そして私たち研究チームは、オートファジーが歳と共に減るのは、細胞の中に「ルビコン」と呼ばれるたんぱく質が増えることが原因であることを突き止めました。

ルビコンはオートファジーのブレーキ役のような存在です。「脂っこい食事はオートファジーには悪い」と過去にもお伝えしてきましたが、脂っこい食事もルビコンを増加させオートファジーの低下をもたらします。このルビコンが今、オートファジー研究のひとつのカギとなっています。

「オートファジーの低下を防いだら寿命がどうなるか」の実験もあります。この実験結果はみなさんのこれからの健康の常識を大きく変えることにもなるはずです。

まず、寿命がどうなるかから結果を示しますと、遺伝子操作でルビコンをなくしてしまった線虫やハエの寿命はオートファジーが活発化することで、平均20%延びました。これ、すごいですよね。今の日本人だと20%延びたら平均寿命は100歳を超えます。

もちろん、この結果に至るまでに紆余曲折うよきょくせつはあったのですが、あまり実験方法の話ばかりが続くとみなさん飽きてしまうでしょうから先に話を進めます。

80歳でフルマラソンを完走するのも夢じゃない

さて、ルビコンを抑えることで寿命の延長がわかっただけでなく、予想外の結果もわかっています。

シャーレの中で線虫がゴニョゴニョ動いているのをビデオで撮影して、あとでどれだけ動いたかを測定してグラフにしました。そうすると、ルビコンのない線虫は老いてもゴニョゴニョ動き続けていました。通常の線虫の2倍は動いていました。これは人間でしたら、80歳くらいなのにフルマラソンを平気で走ってしまうような衝撃です。

これがなぜ衝撃的かというと、老化の特徴のひとつには運動量の低下があるからです。

ルビコンを抑えると、老いてもとてもよく動いたということは、オートファジーを維持できれば、高齢になっても若い頃の体の機能を保てる可能性が高いわけです。

【図表1】ルビコンの有無と線虫の生存率

つまり、生き物はルビコンをコントロールできれば寿命も延び、老化を食い止められる可能性が示されたのです。

もちろん、人間の場合、線虫のようにルビコンを操作できません(将来は薬でできるようになるかもしれませんが)。ただ、これまで見てきたようにオートファジーは活性化できます。ルビコンがあっても、高齢になって低下したオートファジーを再活性化することも可能です。