消費は弱い
しかし、名目GDPの55%程度を支える家計の支出はかなり弱いのが現状です。図表2は家計(2人以上世帯)の支出ですが、このところはインフレを調整した実質では前年比マイナスが続いています。
理由は簡単です。同じ表に一人当たりの賃金を表す現金給与総額を載せてあります。現金給与総額は一見増えているように見えますが、物価上昇率を考えると、「実質所得」は長い間マイナスです。このところのインフレ率は3%を超えた状態ですから、物価上昇分を賃金の上昇はまるでカバーしていないのです。
一見、好調に見える日本経済ですが、実は足腰が弱く、国内で働いて賃金を得ている人の生活は苦しくなっているのです。
ドル建てで考えると…
さらに、その裏ではもっと深刻な問題があることに多くの人は気づいていません。
図表3は、日本の名目GDPの数字を円建てとドル建てで載せてあります。最近2四半期の数字は年換算です。円建ての数字を見ると、コロナ前の2018年頃に556兆円だったのが、最近では590兆円近くにまで回復しているのが分かります。
名目GDPは、企業などが作り出す「付加価値」の合計です。付加価値とは簡単に言えば、企業では売上高から仕入れを引いたもので、その企業で生み出された価値です。国全体の稼ぎと言っていいでしょう。そして、その半分以上が給与として払い出されています。名目GDPは国全体の稼ぎで、給与の源泉なのです。
ですから、名目GDPが増えているということは、国の稼ぎが増え、給与が増えやすいということなのでとても良いことなのです。しかし、先にも見たように、給与の伸び率は、物価上昇に追い付いていないのが現実です。ですから、消費が伸びないのですが、もっと深刻な問題があります。
表には、ドル建ての名目GDPが出ていますが、こちらを見ると愕然とします。
コロナ前の名目GDPはドル換算で見ると約5兆ドルです。当時の為替レートは110円程度でした。それがこの4~6月期では4.3兆ドルです。もし、さらに円安が進んでいる現状の為替レート(148円)で計算すると4兆ドルを切るまでに下がっています。
なぜ、ドルで換算する必要があるのかという質問を受けることがありますが、日本ではエネルギーの大半を輸入しています。それもほとんどがドル建てです。名目GDPは国の稼ぎですから、ドルで見た場合の購買力が極端に落ちているということなのです。
これは、冒頭で述べたハワイに行く日本人観光客と同じことが国内で、しかも大規模に起きているということなのです。