所得水準と比例している平均寿命

こうした各国の平均寿命が所得水準とどのくらい相関しているかを確かめるため、2019年について、縦軸に男女計の平均寿命、横軸に経済発展度を示す人口1人当たりのGDP(所得水準)をとった相関図を作成した(図表2)。

国により所得水準の差は大きいので横軸は対数目盛としている。2019年の値を使ったのは、新型コロナの影響が襲う前でデータが得られる最新年次であり、平常時の状態を知ることができるからである。

図の中で最も所得水準が高いのはマカオ(12万5002ドル)であり、最も所得水準が低いのは、アフリカのブルンジ(783ドル)である。格差は160倍にもなっている。一方、平均寿命の最も高い国は香港の85.2歳であり、最も低い国はアフリカのナイジェリアの52.9歳である。差は32.3歳もある。

日本の所得は4万3459ドルで世界第32位、平均寿命は84.4歳で世界第3位である。

図を見れば、高所得国ほど平均寿命が長く、低所得国ほど平均寿命が短いという一般傾向、正の相関が認められる。高所得国ほど医療水準が高く、衛生状態、食生活水準もよいため、こうした相関が生じていることは明らかであり、寿命と所得には相関関係だけでなく因果関係もあると言ってよかろう。すなわち寿命(いのち)はお金で買える面があるのである。

経済発展度の割に平均寿命の長い国、短い国

日本は主要国の中では世界一平均寿命が高い国である。人口1億人の大国としては立派なものであり、このような相関図の中に位置づけると、日本は平均寿命の点では世界から尊敬を受けて然るべき地位にあるということが実感される。

実際、世界中の人々は日本がどうして永遠のいのちという人類の夢に最も近づくことができたのかに注目している。日本食や日本への観光旅行がブームとなっているのもそのせいである。こうした日本で、チェルノブイリ以来の大きな原発事故が起こっただけに世界は強烈なショックを受けたのである。それだけ注目されているのだから、私は、人類の未来を切り拓くリーダーとしての自覚を、日本人はもっと持つべきだと考えている。

他方、平均寿命が50歳台と非常に短い国がサハラ以南のアフリカに多く見られる。図では、平均寿命と経済発展度(所得水準)の相関とともに、経済発展度が低い割に平均寿命の長い国と、その反対に、経済発展度が高い割に平均寿命の短い国があるという点も明確に分かる。

右上がりの傾向線より左上にある国、すなわち日本の他、コソボ、キューバ、ニカラグアといった国は、経済発展度の割には平均寿命が長くなっている。健康優先の国と言えよう。もっとも、ひと頃と比べるとそうした特徴は目立たなくなった。経済より健康優先というのは、新自由主義が主流となった時代には合わなくなってきたせいかもしれない。

逆に右上がりの傾向線より右下にある国、すなわち所得水準の割には平均寿命の短い国としては、ルクセンブルク、米国、カタール、ブルネイ、ボツアナ、赤道ギニア、ナイジェリアなどが挙げられる。産油国や資源国が多く含まれる。米国は、1人あたりの所得では南米チリの2.6倍の水準となっているが、平均寿命は78.8歳とチリの80.3歳を下回っている。医療制度の機能不全、貧富の差や社会不安、薬物依存の問題などが背景にあると考えられる。

サハラ以南アフリカで平均寿命が短いのは、経済発展が遅れているせいだが、資源開発などによる所得向上が保健衛生の向上に結びつきにくい国内事情も要因のひとつである。

アフリカで人口や経済規模が最大で「アフリカの巨人」とも呼ばれるナイジェリアは、平均寿命(52.9歳)は世界最低となっている。同国は、国家歳入の約7割、総輸出額の約8割を原油に依存している資源国でもあるが、広大な国だけに地域ごとに歴史と地理、宗教と部族、石油資源賦存と収入配分などに大きな差異があり、政治的な不安定性や地域間の対立が醸成されやすく、ボコ・ハラムのテロ、牧畜民と農民の争いなどもある。こうした複雑な国情もあって所得水準に見合った平均寿命の伸びを実現することが難しくなっているのだと理解できる。