ところが近年は所得と生活満足度あるいは幸福度には相関があるとする論文が欧米有力経済誌に紹介されるようになってきた。

そこで、毎期、幸福度を調査している世界価値観調査の最新2017年期の結果と1人当たりGDP(購買力平価PPP換算のドル表示)データで相関図を描いた(図表4参照)。

【図表】幸せはお金で買えるか

相関度を表すR2値は0.1002であり、ゆるい相関が認められる。同じ世界価値観調査の2005年期データでは0.3071、2010年期データでは0.1737だったので、だんだんと相関度は弱くなっている。すなわち、昔ほど幸せはお金で買えなくなっているとも言える。

しかし、相関図を見て、より印象的なのは、所得水準の高い国では幸福度がある一定水準以上に収斂している(不幸と感じている者はそれほど多くない傾向がある)のに対して、所得水準の低い国では、幸福度に大きなばらつきが認められる点である。

比較的所得水準の低いベトナム、キルギス、インドネシア、フィリピンといった中央アジア、東南アジアの諸国は幸福度90%以上であり、所得水準からはこれらの国々と比べ圧倒的に高い米国の幸福度より高いが、他方、これら中央アジア、東南アジアの国と所得面ではそれほど違いがないナイジェリア、イラク、イランでは幸福度が60~70%台と非常に低くなっているのである。

こうした相関パターンは「片相関」として理解できるように思う。2010年発刊の拙著『統計データはおもしろい!』(技術評論社)では「第9章 片相関」にいくつか事例を掲げたが、この相関図もそれに当たると考えられる。

所得水準が高まれば不幸と感じる人の割合が大いに減じるということから、幸せはお金で買えるといえるが、だからといって所得水準の低い国で不幸な者が多いとは限らないのである。お金持ちでも不幸かもしれないよ、という貧乏人の慰めは、事実に反するが、貧乏でも幸せに暮らそうという態度は十分な合理性を持っているといえよう。

また、経済成長が重要なのは幸福を増すからというより、不幸を減じるからであるということも分かる。不幸せの除去はお金で買えるのである。貧しさを経験した者や貧困国の指導者にとって、このことは自明なことだと思われる。

先進国においては経済成長と所得再配分のどちらが優先されるべきかという議論の中で幸福と所得の非相関が主張されるが、途上国側からはこれを途上国に当てはめられても迷惑だという意見の食い違いが生じる。片相関は相関ありと相関なしの同時存在なのでこうした混乱が生じるのだと思われる。

日本は、以前、ドイツと近い位置にあったが、2017年期データでは所得の割に幸福度の高い位置に移動している。韓国、台湾は日本と近い位置にある。

先ほど、いのちの値段を算出したが、幸せの値段はどうなるか。図に示したもっとも当てはまりのよい回帰傾向線の方程式はy=0.000120x+81.6である(yは幸福度、xは所得水準のドル表示)。1ドルが0.00012%に相当するということであり、逆算すると、幸福を感じる人を1%分増やすのに8300ドルの所得増が必要という勘定となる。

従って、幸福度100%の額は83万ドル(1ドル145円で計算すると1兆2000億円)である。あくまで机上の計算だが、これが幸せの値段ともいえよう。

【関連記事】
高級車、時計にお金を使う人は大損している…「幸福感を上げるには何にお金をかけるのがベストか」の最終結論
「年収1000万円の人」と「年収400万円の人」は何が違うのか…お金に悩む人に精神科医が勧めるたった一つの習慣
「徴兵制=不幸」は日本だけ…フィンランドが徴兵制を採用しながら「世界一幸福な国」でいられるワケ
「今から行くから待ってろコラ!」電話のあと本当に来社したモンスタークレーマーを撃退した意外なひと言【2023上半期BEST5】