※本稿は、村上政俊『フィンランドの覚悟』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
ロシアを仮想敵国として軍備を増強
1970年から1980年代にかけて、フィンランドの国防予算は6倍に膨れ上がり、空軍、海軍の刷新を中心に、国防力の整備が進められた。
冷戦後の軍縮の流れも、フィンランドには波及しなかった。国防費の対GDP比は、ウクライナ全面侵攻前の2021年にすでに1.85%に達していた。ウクライナ侵攻後にはさらに、国防費を2023年からの4年間で約22億ドル増額すると決定した。
北欧の雄と目されるスウェーデンに比べてフィンランドは、人口もGDPも約半分に過ぎない。だが、その国力に比して強大な軍事力を維持整備してきた。
これに対して、冷戦が終結してからのスウェーデンの国防政策は、国防費の削減、多くの基地の閉鎖など、フィンランドとは異なる側面を持っていた。ゴットランド島も非武装化された。軍隊の運用についても、冷戦期の総合防衛から、危機管理、国際的貢献へと位置付けを変えた。
象徴的だったのは、徴兵制に対するアプローチが、フィンランドとスウェーデンとの間で異なっていた点である。
なぜ、フィンランドとスウェーデンの間に、国防政策の違いが生じたのか。それはロシアをどのように見るのかという対露観に相違があったからだろう。ロシアとの間で1300キロを超える国境を接するフィンランドは、冷戦終結後もロシアの脅威に対して、より高い警戒を維持し続けていたということだ。
自前の国防力にNATOという同盟力を足し合わせる
一方でスウェーデンは、フィンランド、ノルウェー、デンマークと国境を接しているが、ロシアとの間では、陸上国境を有していない。フィンランドが、いわば壁となって、スウェーデンとロシアを隔てるような形になっている。
フィンランドはもとより、自前の国防力の整備を着実に進めてきていた。ウクライナ全面侵攻によって急速に高まったロシアの脅威に対応するために、強力な国防力という土台の上に、NATOによる集団防衛をプラスアルファしようとしている。自国に危機が迫ってから、泥縄的にNATO、そしてアメリカを頼ろうとしたわけではなかったということだ。
まずは平素から、自国の国防力を高めておく。その基盤の上に、同盟の力を足し合わせていく。こうしたフィンランドの国防に対する考え方は、世界的に見ても極めてオーソドックスであり、日本としても参考とすべきである。