さらに、重要なのは事後。相手が倒れた後は焼き鳥屋にでも誘い、「俺はあのとき君を応援したのだが……。力不足ですまん」などと慰めてフォローしておく。そうすれば、バレない。
間違っても、優位になった自分を誇示してはいけない。相手から信用を得れば、反撃の心配が消えるだけでなく、その後あなたを助けてくれるかもしれないのだ。
サラリーマンジャングルは、何が起こるかわからない。ボスの役員が失脚した場合、別の派閥に速やかに移らなければならなくなる。そんなとき、別の派閥のボスから声がかかることはまずない。呼び寄せてくれるのは、同期だったり役職や能力が同クラスの幹部だ。鞍替えのためのルートを確保しておくことが肝要だが、以前焼き鳥屋でフォローした相手が、呼んでくれるケースだってありうる。
派閥を移る際は、変なこだわりは捨てるべし。スーッと移動して、自然に新しい派閥のメンバーになるのが理想だろう。できる人ほど乗り換えは早い。逆に、こだわれば人生は狭くなる。
中には「一生懸命やれば、いつか認められる」と信じている人もいるが、幻想だ。同期の下で働きたい人などいないだろう。ライバルには勝たなければならない。
そもそも足の引っ張り合いとは、出世コースに乗っている人たち限定の話。能力が高い人たちの間で繰り広げられるのだ。「引っ張られているなぁ」という感覚は、出世を感じるときでもある。引っ張り合いが抗争となって表面化すると、尾を引き会社全体にダメージを与えてしまう。本当に会社を思う人は、ライバルの足を引っ張っても刺したりはしない。
ただし私は一度だけ、あからさまに引っ張った経験がある。千代田が破綻し、子会社の部長だった私は上を引きずり下ろし社長となり、MBO(経営陣による買収)で独立した。私がトップに立たなければ、やっていけないと判断したからだ。独立しもう11年が経過したが、現在約700人が働く新栄不動産ビジネスには派閥も足の引っ張り合いもない。私が超ワンマンだからである。
1954年、山形県生まれ。法政大学工学部卒。土地改良事業団を経て、海上自衛隊に入隊。90年千代田生命に入社。新栄メンテナンスへ出向後、親会社が破綻。2001年新栄メンテナンス(現・新栄不動産ビジネス)社長に就任。