研究とは仮説と実証。論文に新しい発見があるか
【武中】ところで、入江さんは今後、どのような人生設計を考えていますか?
【入江】とりあえずドクターは取るって決めてます。その先はまだ何も考えていません。研究者で行くのか、カエルに関わる仕事に就くのか。
【武中】まずは2年間のマスター(修士)課程を修めた上で、3年もしくは4年のドクター(博士)課程に進むということですね。それにはやはり論文を書かねばならない。
入江さんのようにボクシングという競技を究めた人におこがましいんですが、研究者の先輩として一つアドバイスさせてください。いい論文とは、ノイエス(ドイツ語で新しい発見)が含まれていることです。研究とは、仮説と実証。
【入江】今、研究計画立てなきゃいけないので、うんうんうなりながら仮説を考えています。
【武中】先行研究、類似研究の論文を読んで仮説を立て、実際に調査をしてみると仮説と合わないことが出てくる。結果が出なかったとがっかりして諦めてすべてを捨ててしまう。ところが、科学においては先行研究がそもそも間違っている場合がある。
先行研究を塗り替えるような論文が一番評価が高いんです。大切なのは(仮説と違う)ネガティブなデータを捨てないこと、簡単に諦めないこと。
【入江】私、小学2年生からボクシングを始めて14年やって芽が出て、金メダルが獲れたと考えているんです。研究にもそれぐらい時間がかかると覚悟しています。
【武中】いい論文を一つ書けば、世界中の研究者が評価して、環境が一変します。金メダルと同じでしょうね。オリジナルな入江理論を楽しみにしてますね。
【入江】先生、ありがとうございます(笑)。頑張ります!
東京オリンピック女子ボクシング金メダリスト
2000年鳥取県米子市出身。鳥取県立米子西高校卒業。日本体育大学在学中の2021年東京オリンピックボクシング女子フェザー級で日本人初となる金メダルを獲得。試合の戦略をすべて「カエル」で例えたことからメディアでも大きく取り上げられ、「カエル愛」が流行語大賞にノミネート。2022年11月で競技を引退し、日本体育大学卒業後は大好きなカエル研究の道へ。2023年4月より東京農工大学の大学院修士へ進学。
武中 篤(たけなか・あつし)
鳥取大学医学部附属病院長
1961年兵庫県出身。山口大学医学部卒業。神戸大学院研究科(外科系、泌尿器科学専攻)修了。医学博士。神戸大学医学部附属病院、川崎医科大学医学部、米国コーネル大学医学部客員教授などを経て、2010年鳥取大学医学部腎泌尿器科学分野教授に就任。2013年~2017年に低侵襲外科センター長、2017年副病院長を併任。2023年4月より鳥取大学医学部附属病院長に就任。「人から求められる医療人になる」ことを目標に、とりだい病院が“地域と歩む高度医療の実践”の場となれるよう邁進している。