「世界の麻薬工場」中国の化学会社を米司法省が起訴

政策シンクタンクのブルッキングス研究所が発表した「中国と合成麻薬:地政学が麻薬対策協力に勝る」(2022年3月7日)と題する報告書によれば、中国は世界でも有数の化学製品輸出国であり、16万から40万の化学品製造・販売業者が存在するという。

そのなかには、法的承認を受けていないダミー会社の陰に隠れている業者も少なくない。その多くが合成オピオイドの一種でヘロインの50倍、モルヒネの100倍強力とされる致死性の高いフェンタニルやメタンフェタミン(覚醒剤)などを生産し、海外に密輸している。

中国から密輸される違法薬物によって諸外国は深刻な被害を受けており、中国政府に対して厳しい密輸防止対策をとるように求めている。しかし、中国政府はこの要請に応えていない。

このような状況のなかで、米国司法省は今年の6月23日、フェンタニルの原料や類似体(化学構造と効果が似ている)などの化学物質を違法に取引したとして、中国の化学メーカー4社と従業員ら8人を起訴したと発表した。

米国がフェンタニルの製造販売関連で中国企業を起訴するのは初めてだが、2022年には年間約11万人の米国人の命を奪い、全米の地域社会を破壊していると言っても過言ではないフェンタニルの過剰摂取問題に、米国政府が本気で取り組む姿勢を示した形となった。

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中国企業とその従業員を起訴

起訴された中国企業と従業員は米国へのフェンタニルの密売と、米国にフェンタニルを密輸しているメキシコの麻薬組織に原料を密売した罪などに問われた。

司法省はさきほどの発表のなかで、被告企業や従業員の名前を公表しているが、河北省武漢市に拠点を置くアマベル・バイオテック社(Amavel Biotech)はフェンタニルやその類似体の生産に使用される化学物質を米国とメキシコへ密輸したという。

この事件を起訴したニューヨーク州南部地区連邦検事局のダミアン・ウィリアムズ検事は、「これによってフェンタニルとの戦いは新たな段階に入りました。我々はフェンタニルの原料を生産し販売している中国企業と、マーケティングマネージャーなどの幹部を起訴しました。彼らは米国の捜査官によって手錠を掛けられ、法廷で正義の裁きを受けることになります」と述べた。