「福神漬け」の読み方は2種類ある
カレーの付け合わせとして福神漬けは欠かせません。皆さんはこれを何と呼んでいますか。
「当たり前じゃん」と、愚問に思われたかもしれません。私も『決定版 天ぷらにソースをかけますか? ニッポン食文化の境界線』(野瀬泰申著、ちくま文庫)を手に取るまで、2種類の読み方があるとは思ってもいませんでした。
この本は日経電子版の読者アンケートをもとにしていますが、設問の一つに「『福神漬け』をなんと読みますか?」というものがあったのです。私は思いました。「え、『ふくしんづけ』じゃないの?」
ここで「いや、『ふくじんづけ』でしょ」と思った方、その通り。同書にも書かれてありますが「ふくじんづけ」が圧倒的に多数です。多くの辞書でも「ふくじんづけ」の読みしか示していません。
由来を調べると、この漬物は明治時代に東京・上野の「酒悦」という店の主人が創作したものだそうです。ダイコン、ナタマメ、ナス、レンコン、カブ、ウリ、シソの7種の野菜を漬け込み、上野の弁財天にあやかり七福神と命名。「他に副食がなくても済むから財宝がたまる」と宣伝したとも。だから「七福神」の「ふくじん」が本来の読みだと認めざるを得ません。
香川出身の父の影響か、「神」の読み癖か…
ただし、先ごろ第8版が発売された『三省堂国語辞典』には、「関西などの方言」として「ふくしんづけ」も付記されています。それを裏書きするように京漬物の店「大安」が「ふくしん漬」という商品を出していることも知りました。つまり「ふくしん」も間違いというわけではないようです。それにしても、私は関西出身ではないのに、どうして「ふくしんづけ」で覚えていたのでしょう。
先述の本にはアンケートに基づく日本地図があり、私の出身地、広島県では「ふくじんづけ」「ふくしんづけ」が拮抗しています。そして父の出身地、香川県では「ふくしんづけ」が「圧勝」とあります。父の影響? でも、父がどう呼んでいたか記憶になく、聞こうにも亡くなっています。
「神」を「しん」と読む似た例としては、村の境や峠に置かれた守り神の像「道祖神」があります――と書こうとしたところ、またしても衝撃が。「どうそじん」でした。「道祖神」が出てくる「奥の細道」の冒頭を音読もしていたはずなのに、なぜか「どうそしん」で覚えていたのです。どうも「神」を「しん」と読んでしまいがちな癖が付いてしまったようです。
毎日小学生新聞は原則としてすべての漢字に振り仮名が付きますので、校閲していると「違う」と直そうとして、念のため辞書を引くと自分の方が間違っていたということが時々あります。思い込みが崩れる衝撃は、しかし新たな発見の喜びでもあります。いささか遅いですけれど。
(2022年1月23日 岩佐義樹)