日本の経営システムの良さも見直すべき

こうしたときに、アクティビストに代表される短期的な収益を求める投資家と経営者の意見は対立することになる。

1991年に倒産したパンアメリカン航空は、かつてアメリカを代表する航空会社と呼ばれたが、経営難に陥ると、ドル箱路線の太平洋航路や大西洋航路など、収益性の高い路線から順番に売却。短期的なつなぎはできたものの長期的には同社を支える収入源がなくなり、会社そのものが消滅した。短期的な収益性だけでは企業の存続は難しい。

早稲田大学商学部の清水洋教授は、アメリカに比べて日本には長寿企業が多いということを彼の著書で示している。短期的な収益性を重視するアメリカの経営スタイルと長期的な成長に重きを置く日本企業では、企業の寿命にも影響が出るのかもしれない。

多くの日本企業の経営が行き詰まった2000年代以降という時期は、アメリカ式の企業統治システムを各社が積極的に取り入れた時期とも重なる。アメリカ式の経営のよいところはもちろん取り入れるべきであるが、闇雲にアメリカのやり方を模倣すればよいというものでもない。日本の長期戦略に対応しやすい経営システムの良さも見直してもよいのではないだろうか。

リアル・オプション的な経営手法が必要

再び東芝の話に戻すと、東芝は島田体制の中で新たな成長事業の模索を始めたところである。この段階でまずは長期的な視点で試行錯誤を繰り返し、投資を行う必要がある。その意味で、短期的な収益性を強く主張する投資家の意見からフリーな状況を作り出す非上場化には一定の意味があると思われる。

写真=時事通信フォト
日本産業パートナーズによる東芝のTOB(株式公開買い付け)が8日に開始されることを受け、記者会見する東芝の島田太郎社長[同社提供]=2023年8月7日

船頭が多くなりすぎれば船は前には進まない。特定の出資者の監視の下で長期的な戦略を行うということは、経営者が同意を求める相手を限定することにつながり、スピーディーに経営方針を立案、実行できるということである。

しかし、無制限に試行錯誤を繰り返していいというわけでもない。その意味で5年をめどに再上場を目指すというのは、長期的経営の効果と効率性のバランスをとるための良い落とし所かもしれない。

不確実性が高く未来が見通しにくい場合、すべての意思決定を早く行うということは得策ではない。今すべての意思決定をせずに意思決定の条件だけを設定し、意思決定そのものは将来に先送りをする。これはリアル・オプション的な意思決定である。

東芝もまずは5年という期間で経営者に自由な手腕を振る時間を与え、5年後にその評価とその後の意思決定を行うというリアル・オプション的な経営手法を取り入れることが、不確実性の高い、エレクトロニクスやエネルギーのビジネスでは必要なことなのかもしれない。

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