赤ちゃんは母親の胎内では基本的に無菌で腸内細菌を持たないといわれています。赤ちゃんがどうやって腸内細菌を獲得するかは未だに明らかではないのですが、この生まれ方の違いにヒントがあると考えられています。

経膣分娩児と帝王切開児の腸内細菌の違い

英国内の約596件の出産を分析し、経膣分娩児と帝王切開児の腸内細菌を調べてみると両者に違いがあることが判明しました。

宿主の免疫系に影響を与えて炎症を抑えるのに役立っているビフィズス菌(Bifidobacterium)やバクテロイデス属(Bacteroides)という細菌は、ほぼ全ての帝王切開児で、出生後の腸内にほとんど存在しませんでした。

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さらに9カ月経過しても帝王切開児の約60%はまだ腸内にバクテロイデス属細菌がごく少ないか、もしくは全く存在しなかったのです(※6)

※6 Shao Y, et al. Stunted microbiota and opportunistic pathogen colonization in caesareansection birth. Nature. 2019; 574(7776): 117-121.

それどころか、帝王切開児の腸内には、エンテロコッカス属(Enterococcus)やクレブシエラ属(Klebsiella)などの、病院内で一般的に見られる有害な細菌が多くを占めており、いわゆる院内感染によって腸内細菌が獲得されている場合があったのです。

腸内細菌は母から子へ受け継がれる

このように、帝王切開で生まれた赤ちゃんには、経膣で生まれた小児や成人に見られる腸内細菌のいくつかが欠如している傾向があることがわかりました。事実、帝王切開で生まれた赤ちゃんは、腸内細菌の欠如により、喘息やアレルギーの発症リスクが、経膣分娩の赤ちゃんより若干高いという報告もあります(※7)

※7 Wang T, et al. Prevalence and influencing factors of wheeze and asthma among preschool children in Urumqi city: a cross-sectional survey. Sci Rep. 2023; 13(1):2263.

そういうことであれば、帝王切開児に、経膣分娩児が母親から受け継ぐ細菌を獲得させてあげればいいわけです。母親が持つ細菌そうを赤ちゃんに受け継がせる方法はいくつか報告されています。

まず、膣を通るときに細菌のシャワーを浴びるという発想から、帝王切開で生まれたばかりの赤ちゃん11人に母親の膣液を塗ることが試されました。これは膣内微生物移行(vaginal microbial transfer)と名付けられており、出産に先立って4人の母親の膣内にガーゼを1時間入れておき、帝王切開による分娩の直後2分以内に赤ちゃんの顔や身体をそれぞれの母親からのガーゼで拭って膣液を塗りつけます。

母親のうんちを赤ちゃんに与えた結果

このトライアルは4人の赤ちゃんにしかなされていませんが、これらの赤ちゃんは、膣液に暴露しなかった赤ちゃん7人と比べて腸内細菌の性質が経膣分娩の赤ちゃんに似ていたのです(※8)

※8 Dominguez-Bello MG, et al. Partial restoration of the microbiota of cesarean-born infants via vaginal microbial transfer. Nat Med. 2016; 22(3): 250-253.