ペアレント・トレーニングを学ぶ

こうした子どものへの対応に役立つのが、「ペアレント・トレーニング」です。ペアレント・トレーニングとは、環境などを調整しながら、保護者が「子どもをほめることをベースにした養育スキル」を学ぶためのプログラムです。ペアレント・トレーニングによって、子どもの問題行動が改善され、養育者のストレスが減ることなどが、さまざまな研究によって明らかになっています。特にADHDの子どもに有効で、推奨プログラムとして治療のガイドラインにも載っています。

ペアレント・トレーニングでは、子どもの行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分けます。「許しがたい行動」とは、例えば他人に暴力を振るう、道路に飛び出すなど危険なもので、これは即座に制止するのがルールです。でも、宿題をしない、食事に文句をつける、ゲームをやめないなどといった「好ましくない行動」については、その行動を強化しないようあえて取り合わずに、ほめるタイミングが訪れるのを待ちます。反応しないのはその行動に対してのみで、子どもに話しかけられたら返答しましょう。その後、宿題などのやるべきことを始めたり、逆にやってはいけないことをやめられたら、すかさずほめます。ほめることで、よい行動を増やすことができるからです。

また、子どもに「いいかげんにして!」などと、遠くから否定的な感情とともに抽象的な声がけをするのではなく、CCQ(Calm, Close, Quiet)で、子どものすぐそばに行き、落ち着いた静かな声で、具体的な指示を出すなど、効果的な声がけについても学びます。

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医療機関での実施が望まれるが

ADHDの治療では、まずペアレント・トレーニングなどの心理社会的な治療を行い、それでも効果が見込めない場合に薬物療法を行うというように、治療ガイドラインにも書かれています。しかし現在は、ほとんどの医療機関でペアレント・トレーニングは実施されていないのが現状です。

その理由のひとつに、診療報酬の問題があります。ペアレント・トレーニングを実施するためには、それを行う部屋や、実施者としてトレーニングを受けた専門家が必要です。しかし、診療報酬が認められていなければ、環境の問題も含め、どうしても普及しにくいのです。私が所属している国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所では、医療従事者を対象とした「医師におけるペアレント・トレーニング実施者養成研究」を行っており、現在もペアレント・トレーニングの普及に努めています。今後は、できれば医療機関で治療の一環としてペアレント・トレーニングが受けられるようになるのが理想です。現段階では、自治体などの講座を受けるか、または本などを読んで行うしかありません。