子どもの癇癪や理不尽な要求にイライラして、怒鳴ってしまい自己嫌悪。子どもは子どもで、怒ってばかりいる自分に自信が持てずに苦しそう。子どものアンガーマネジメントの絵本、『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』を監修した児童精神科医の岡田俊さんは「怒りを爆発させず、自分の心のなかにぽんと浮かべておけるようになるといい」という――。(聞き手=沖本敦子)

怒りっぽい子にしてあげられること

子どもが怒りっぽく、癇癪かんしゃくがひどい場合に、養育者から「夜遅くまで動画ばかり見ていて、やめさせるのに一苦労」というお話を聞くことがあります。近頃の子どもは、ゲームやネット以外の生活のバリエーションが乏しいことが多く、日常生活や学習課題に取り組みにくいと、それがそのままネットの時間につながっていくのです。これさえ何とかできればと養育者が考えるのはもっともですが、無理やりゲームや動画を取り上げるのは、新たな癇癪の原因になるばかりか、有効でない場合が多いものです。反対に日常生活の工夫を行うなかで、結果としてネット以外の時間が増えてきたとしたら、大成功です。

新井 洋行(著)、岡田 俊(監修)『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイインターナショナル)
新井 洋行(著)、岡田 俊(監修)『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

特に一定以上の年齢になると、「あれはダメ、こうしなさい」と生活を細かく管理するのにも無理が生じます。一歩引いて、もっと大枠のところで、「自分が子どもに十分な安心感を与える源になれているか」という視点で考えてみることが大切です。子どもは、まだ独り立ちできない弱い存在であり、自分ひとりでは解決できないことがたくさんある状況で生きています。そのなかで親や先生など、たくさんの人に助けてもらったり、守られたりして、毎日を安心に暮らしているわけです。

養育者が子どもに安心感を与えられていると、子どものなかに怒りの感情が起こったとき、その気持ちを養育者に伝えることができる。養育者はその感情を受けとめて、支えることができます。子どもの怒りや癇癪をなくそう、直そうとするのではなく、怒りの手前に隠された、その子の本当の気持ちを理解しようとする。そうやって子どもの気持ちを尊重してあげる機会を積み重ねることで、子どもは安心感のなかで、自分の怒りを少しずつコントロールできるようになっていきます。

怒りの奥には、伝えたい本当の気持ちが隠れている。
怒りの奥には、伝えたい本当の気持ちが隠れている。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

報酬や脅しで子どもの怒りに対応しない

子どもが怒りを爆発させてしまったとき、もっとも大切なのは、それに輪をかけて怒りを爆発させ、火に油を注がないことです。また、子どもの怒りを無理に抑え込んだり、その場を収めるための報酬や脅しを与えないことも大切です。報酬を与え続けると、子どもが怒りを爆発させる場面が増えますし、脅しは子どもが反発するので逆効果になります。さらに言うと、そのような養育者の言動が子どもの行動のモデルになり、その言動によって、養育者がさらに頭を悩ませることにもなるのです。

もうひとつ大事なのは、子どもが公共の場で怒りを爆発させた場合の対応です。周囲の視線が冷たく感じられて追い込まれ、よくないことだと知りながらも、つい子どもに手を上げてしまったり、怒鳴りつけてしまったりしたことのある人もいるでしょう。本当はそんなことをしたくなかったのにやってしまった場合、その後につらく悲しい気持ちになります。罪悪感にさいなまれて、子育ての自信やエネルギーを失ってしまう場合もあります。世間は世間、毎日悩んでいる養育者の努力や苦しみをわかっているわけではありませんから、周囲を気にしすぎないようにしましょう。

子どもが癇癪を繰り返している場合、「また始まった」と絶望的な気分になると思いますが、その感情を言動に反映させず、ひと呼吸おいて肩の力を抜いてください。子どもの怒りが収まるまでには、ある程度の時間がかかりますから、視線が気にならないところへ移動して、落ち着くのを待ってもいいでしょう。あるいは、他人の目を気にしすぎず、その場で堂々とやってもいい。暴言にはあえて反応せず、子どもが落ち着く瞬間(ほめるタイミング)が来るのを待ち、ご自身の気持ちを整えてみてください。

子どもが落ち着いたら、まず落ち着けたことを評価します。叱るよりもほめるほうがいい行動を引き出せるからです。それから子どもが怒っていた理由を一緒に確認して、共感してあげることが大事です。もちろんうまくいかないことも多いと思いますが、何かひとつでもできたら評価し、スモールステップを積み重ねていくことが大切です。