コーピング行動で怒りの爆発を防ぐ

私が監修した絵本『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』では、すぐに怒りを爆発させてしまうポポリに、「ゆっくり10かぞえる」「みずをのむ」「あさたべたものをおもいだす」など、いくつかのコーピング行動(ストレスに対処するための行動)を勧めています。

何かあったときにとっさに沸き起こる怒りというのは、自分の「本当の感情」ではなくて、動物に備わった「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」の表出でもあります。怒りの第1波をコーピング行動でやりすごしたあとに、怒りの奥に含まれている「本当の気持ち」に向き合える。怒りは非常にすばしこいですから、爆発する前に「怒りのしっぽをぐっとつかまえ、少しの間やりすごす」ことが大切です。そのためには、強い怒りが発生した瞬間に、気持ちを他に向けることで爆発を防ぐ「コーピング行動」を取れることが、本人にとっても助けになります。

怒りの爆発を防ぐためのコーピング行動の例。
怒りの爆発を防ぐためのコーピング行動の例。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

絵本で紹介しているのは、あくまで例ですから、この通りでなくてもいいんです。大事なのは、いろいろな工夫について思いをめぐらせ、その子なりのやり方を見つけること。私の診察室でも、怒りが抑えきれなくなると突然歌い始めたり、決まったフレーズを呟く子もいれば、体に洋服をぎゅっと巻きつける子もいる。お母さんの二の腕にさわると落ち着くという子もいます。

「そんなことするのやめなさい」ではなく、それがその子にとってのコーピング行動であることに気づきましょう。あるいは、その子が落ち着くためのコーピング行動を一緒に探してあげましょう。怒りを爆発させないでいられた場合には、その子が自分で落ち着けたことを評価して、ほめてあげてください。

最初はうまくいかないことのほうが多いでしょう。でも、一進一退で練習を重ねていくうちに、少しずつできるようになっていきます。やがて、子どもが自分で怒りのしっぽを捕まえて爆発を回避できるようになると、「自分で対処できた」という自信が安心感につながっていきます。

怒りを外在化させることの意味

絵本のなかにはさまざまな「怒りの理由」が、かいじゅうたちの姿とともに一覧で出てきます。これは怒りという感情に、本人とは別のキャラクターを与えることで、客観的に見られるようにするためです。

本人の人格とは切り離し、怒り自体を外在化することで「怒ってしまうあなたが悪い」ではなく、「怒りんぼさんが、あなたにくっついちゃったね。取ってあげるために何ができる?」というアプローチが可能になる。保護者の方も、子どもの人格を傷つけたり、おとしめたりすることなく、対処することができるようになります。

怒りの原因カタログ。絵を見ながらだと、対話の糸口も見つけやすい。
怒りの原因カタログ。絵を見ながらだと、対話の糸口も見つけやすい。出典=『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』(パイ インターナショナル)

「今あなたに取りついちゃったのは、どのかいじゅうかな? そのかいじゅうは何に怒っているの?」などと絵を見ながら話せば、会話の糸口も見つけやすくなります。本人の気持ちは話しづらかったとしても、「このかいじゅうは、こんなふうに思っていると思う」などと子どもが少しずつ気持ちを言語化できるようになると、怒りが爆発する頻度が少しずつ減っていきます。

感情の言語化というのは、練習が必要です。繰り返し自分の気持ちを言葉にすることで、自分のなかにいろいろな感情があるということを知り、それを相手に伝えることができるようになります。このスキルは大人になってもずっと有効です。