日本人と欧米人の違い
なので、そこでお店の側がなすべきことがあるとするならば……それはこの種の不安を可能な限り取り除いてあげることでしょう。
そのための接客技術として、最も基本的かつ効果的なのが「笑顔」です。「決して敵意なんかありませんよ、あなたをないがしろになんてしませんよ」という態度をなるべくわかりやすく表明するための、最もベーシックな技術。それはもしかしたら「処世術」と言い換えられるのかもしれません。
欧米だと、この種の処世術は、むしろお客さんの側に課せられた責務と感じられることがあります。自分たちのお店を訪れる欧米人のお客さんたちも、やっぱりこうした本国での慣習を保ち続けていることが多いようです。
特に欧米人のおひとり様に多いのですが、何か真剣な考え事でもしているのか、クールというよりむしろ仏頂面で座っているお客さんも、料理をサーブした瞬間だけ満面の笑顔で(?)、「Thank you!」と言ってくれます。しかもその時、彼らは必ずしっかり目を合わせます。そしてまたすぐに元の仏頂面に戻り、淡々と目の前の料理を食べ始めます。
日本人でも「ありがとう」と言ってくれる人はそれなりにいますが、目を合わせることまでするお客さんは滅多にいません。欧米人のお客さんたちの、この反射的と言ってもいい振る舞いは、文化的にしっかり染み付いたものという印象を受けます。
ネット上でバズったある張り紙
ネット上で、スコットランドのあるパブに掲示された張り紙が話題になったことがあります。そこにはこんなことが書かれていました。
「お前が受けるサービスの質は、お前の態度と俺の気分次第だ」
これは、日本における飲食店側のへりくだり過ぎる接客にむしろ違和感を覚えているのであろう、今どきの多くの人々からの快哉を呼びました。
ただしこれは、欧米のお店に張られているか、あるいは日本のお店に張られているかで、伝わり方に微妙なニュアンスの違いはあるのではないかと思います。スコットランドのそれは、(誰もがついつい素になってしまう酒場という場においても)普段通りの社会的態度を要求する、言わば常識の再確認なのでしょう。
しかし少なくともこの張り紙が多くの人々の共感を得たくらいには、日本の飲食店においては、お店側が極端なまでに一方的なコミュニケーション・コストを背負っているのは確かだと思います。
お客様は神様だと言わんばかりにふんぞりかえるお客さんとひたすら下手に出るしかないお店の人、という構図は、それが度々批判の対象となる程度には世に蔓延しています。