「備えあれば患いなし」を日本に教えてくれる

筆者はあるフィンランド政府高官に、フィンランドが怠りなく国防力の整備を図ってきたのは何のためだったのか、尋ねてみたことがある。その高官は、

「村上先生、その目的は明らかだと思います。我々が備えてきたのは、西側の隣国(スウェーデン)ではありません。それは、東側の隣国(ロシア)のためです」

と述べた。フィンランドは、西はスウェーデン、東はロシアと陸上で国境を接している。だが、この高官が述べるように、フィンランドに対して安全保障上の脅威を及ぼしているのは、東側の隣国のみである。

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日本ではほとんど知られてこなかったが、フィンランドは、約1300キロの陸上国境で隣接するロシアを、仮想敵として想定して、長年にわたって軍事的な備えをしてきた。

フィンランド軍制服組トップのティモ・キヴィネン司令官は、何十年にもわたってロシアの攻撃に備えてきたと述べている。

フィンランド陸軍は、ヨーロッパ最強といわれる砲兵部隊を以前から擁しており、主力戦車としてはドイツ式レオパルト2を採用している。すでに述べたように、2023年2月には、同戦車を3両、ウクライナに供与すると発表した。空軍力の増強についても、フィンランドは積極的に取り組んでおり、F‐35戦闘機の導入を決定している。

まさに、備えあれば患いなしを体現してきたのが、フィンランドなのである。フィンランドは、我々に対して、備えがいかに大切かを教えてくれている。

18歳以上の男子に兵役義務を課す徴兵制を採用

ハード面の戦力を整えることは、もちろん重要である。すでに述べたようにフィンランドは、ハード面での国防力の整備を着実に進めてきている。だが、それだけでは戦争に勝つことはできない。

ウクライナの人々の勇姿は、国防への国民の参画が、戦時にあっていかに大切かを我々に教えてくれている。自分たちの国は、自分たちで守る。洋の東西を問わず、この点こそが国防の根幹である。日本人にとっても、決して他人事ではない。

軍事組織の構成員を確保する方法については、徴兵制と志願制に大別することができる。日本の自衛隊は、後者を採用している。

これに対してフィンランドでは、18歳以上の男子に兵役が課され、徴兵制が敷かれている。フィンランド憲法第127条第1項は、国防の義務について「全てのフィンランド国民は、法律で定めるところにより、祖国の防衛に参加し、又はこれを支援する義務を負う」

と規定している。兵役の期間は、2013年の法改正によって短縮されたものの、165日(5.5カ月)、255日(8.5カ月)、または347日(11.5カ月)となっている。