一連の裁判で、アメリカの最高裁は総額90億ドル(約1兆円・当時)の損害賠償を求めていたオラクルの主張を退けた。その判決理由の一つとして、最高裁は「利用の目的」を挙げ、下記のように言及している。

《グーグルの目的は、異なるコンピューティング環境(スマートフォン)における異なるタスク関連システムを創出し、その目的の達成・普及を助けるプラットフォーム(アンドロイド・プラットフォーム)を創出することだった。》

つまり、著作権侵害による90億ドルもの損害よりも、企業のイノベーションを優先させたのである。別の作品を作るために原作品を利用するパロディーにフェアユースを認めた1994年の最高裁判決以来、アメリカでは、これがフェアユースの判断基準になっている。フェアユースは“ベンチャー企業の資本金”だ。アメリカでグーグルをはじめとしたIT企業が躍進したのは、著作権に関わる、こうした考え方によるところが大きいのだ。

日本ではまったく逆の判決が出ている

一方日本では、まったく逆の判決が最高裁により出されていた。

ご記憶の方も多いかと思うが、今から35年前の1988年、カラオケの著作権使用料を払わずに営業していたスナック店の著作権侵害が争われた「クラブキャッツアイ事件」の裁判である。

日本音楽著作権協会(JASRAC)が、カラオケスナックが演奏権を侵害したとして損害賠償を請求した裁判で、最高裁は、これを認める判決を出した。

店で歌っている客は「歌う」、つまり「演奏する」ことによってお金を儲けているわけではないので著作権侵害とはいえない。ただし、店主は客の歌唱を管理し、これによって利益を得ているため、著作権を侵害していると結論づけたのだ。

この判決はのちに「カラオケ法理」と呼ばれるようになる。この考え方がその後、カラオケ関連サービスだけでなく、インターネット関連サービスにも広く適用されるようになった。それがネット関連新サービスを提供するベンチャーの起業の芽を摘み取り、日本のIT化・デジタル化を遅らせる原因にもなったのだ。

カラオケ法理が適用されたインターネット関連サービス判決
ファイルローグ事件(2005年3月、東京高裁)
利用者のファイルリストを中央サーバーで管理し、利用者が音楽ファイルを交換できるようにするサービス

録画ネット事件(2005年11月、東京高裁)
テレビ番組を録画して、インターネットを通じて利用者の所有する端末に転送するサービス

MYUTA事件(2007年5月、東京高裁)
利用者がインターネットを通じて楽曲の音源を事業者のサーバーにアップロードし、必要に応じて利用者の所有する端末に楽曲をダウンロードするサービス

TVブレイク事件(ジャストオンライン社)(2010年9月、知財高裁)
利用者が音楽・映像などを投稿する動画投稿サイト

まねきTV事件(2011年1月、最高裁)
利用者が預けた機器を通じてテレビ番組をインターネット経由で転送するサービス

ロクラクII事件(2011年1月、最高裁)
テレビ番組を事業者の機器で受信・録画し、インターネットを通じて利用者の所有する端末に転送するサービス
※カッコ内は判決の確定した時点と裁判所