日本版フェアユースの導入が切り札

2018年改正法で追加された30条の4は、「著作物の表現の享受を目的としない利用」であれば商用目的でも利用を認める点で、ヨーロッパを中心とした非商用目的に限る国よりは利用しやすくなった。このため、「日本は機械学習パラダイスだ」と呼ぶ知財法学者もいた。2018年の法改正時には、情報解析のための著作物利用は著作者の権利を通常は害さないとみられていた。生成AIのようにアウトプットにつながる利用は想定していなかった。

生成AIの登場により、文章や画像を誰でも簡単に作成できるようになり、イノベーションが期待される一方、著作権が侵害される懸念が増した。このため、政府は6月に公表した「知的財産推進計画2023」で「急速に発展する生成AI時代における知財の在り方」を重点施策に掲げ、7月から文化庁著作権分科会法制度小委員会で、AIと著作権に関する論点整理を行うことになった。具体的には、30条の4に掲げる「非享受目的」に該当する場合、著作権者の利益を不当に害することとなる場合(30条の4はただし書きでそういう場合は対象外としている)などについて基本的な考え方を明らかにすることとした。

この経緯からいえることは、「やむを得ないと認める場合は許諾なしの利用を認める」日本版フェアユースの必要性である。デジタル・ネット時代に対応するための柔軟な権利制限規定を検討した2018年の改正は、「著作物の表現の享受を目的としない利用」を認めることにより、従来、必要の都度、追加されてきた個別の権利制限規定よりは柔軟な規定を導入した。それでも5年先も読めないような技術革新の激しい時代に追いつけないことが、日本版フェアユースの導入の必要性を裏付ける。

フェアユース規定のメリットは、著作権者から訴えられてもフェアユースが認められると判断すれば、判決を待たずに見切り発車でサービスを開始できること。この規定をバックに先行するアメリカ企業に、日本市場までもが草刈り場にされてしまっている。1970年代に始まったリバース・エンジニアリングを皮切りに、画像検索サービス、文書検索サービス、書籍検索サービス、スマートフォン用OSなどの新技術・新サービスがそれである。 

【図表】新技術・新サービス関連サービス合法化の日米比較
筆者作成

フェアユース規定を導入した国の中で、2021年のGDP成長率が最も高かったイスラエル(8.6% IMF-World Economic Outlook Databaseより)は、国民一人あたりの起業会社数も世界一多く、国を挙げてイノベーションを奨励し、起業促進に取り組んでいる。そのため、アップル、グーグル、マイクロソフトなどのIT大手が、買収候補のベンチャー企業を求めてイスラエル詣でをしている。

ちなみに、同じ2021年の日本のGDP成長率は2.1%で、昨年はさらに落ちて1.1%だった。フェアユースの導入が、これからの日本のIT産業のイノベーションを促進することは間違いない。ポストコロナに向けた日本経済の立て直しのためにも、日本版フェアユースを一刻も早く導入する必要がある。

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