経済成長率の高い国ではフェアユースが導入されている

この判決が、日本のIT産業のイノベーションを阻む元凶となったと言っても過言ではない。

例えば、事業者が利用者のファイルリストを中央サーバーで管理し、利用者が音楽ファイルを交換できるようにするサービスがレコード会社などから訴えられた「ファイルローグ事件」では、2005年3月に東京高裁が事業者の著作権侵害を認める判決を下した。

また、インターネット経由で海外に住む日本人が日本のテレビ番組を視聴できるようにするサービスを提供していた事業者が、テレビ局(NHKと民法キー局)から訴えられた「まねきTV事件」では、2011年1月、最高裁が事業者の著作権侵害を認めた。テレビ番組を受信・録画する機器を利用者自身が事業者に提供し、その利用者のみが録画した番組を視聴できるサービスであったにもかかわらず、である。

どちらの事件も、事業者が著作権物を管理し、それを利用者に提供して利益を得ることは著作権侵害にあたるとした「カラオケ法理」が、インターネット関連サービスにも適用された例である。そしてこれ以外にも、カラオケ法理が適用されたインターネット関連サービスの著作権侵害裁判はいくつもある。

このままでは日本のIT産業がイノベーションを起こすことはできず、IT後進国のままで、大きな経済成長も望むことができなくなってしまう。フェアユース規定は台湾やシンガポール、イスラエル、韓国など、すでに複数の国と地域で導入されており、どの国もコロナ禍真っただ中の2021年にGDP成長率を大きく伸ばしている。

【図表】フェアユースを導入した国と地域(導入年)と2021年のGDP成長率
筆者作成
※GDP成長率はIMF「Real GDP growth」より

2度の改正で「AIの読み込み」は可能になったが…

日本でもフェアユースのような判断基準を用意すべきだ。一定の基準に基づいてケース・バイ・ケースで判断する方式を採用すれば、現在の厳しすぎる著作権法の不備を補える。

実は日本でも、内閣に設置された知的財産戦略本部が2016年に提案した「知的財産推進計画」を受けて、日本版フェアユースが検討されてきた。アメリカのフェアユース規定が権利制限規定の最初に登場するのとは異なり、日本版フェアユースは権利制限規定の最後に受け皿規定を置く案である。具体的には「利用行為の性質、態様」について、「以上の他、やむを得ないと認める場合は許諾なしの利用を認める」という規定を末尾に設けるものであった。

【図表】権利制限の柔軟性の選択肢
筆者作成

この規定の導入を検討し、二度にわたる著作権法改正が行われた。二度目の2018年改正でやっと実現したのが「著作物の表現の享受を目的としない利用」だ。これによりAIに著作物を読み込ませることは可能になったが、「やむを得ないと認める場合は許諾なしの利用を認める」は含まれなかった。