「いい」は相手の行動を理解していない時の言葉
母はわたしに「いい」という言葉を使わせなかった。母は、好ましい行動を取った人に好意的なことを言いたければ、ほんの一瞬でもいいから知恵を絞って、もっと思慮深く、描写的で、意味のある言葉を使いなさいと言った。
誰かが真に思いやりのある善良な行為をしたのに、「よかった」という言葉しか出ないなら、あなたは相手の行動を理解していない。あるいは、思ったような成果が出ませんでしたねと言いたいときか、わたしは興味ありませんとほのめかしたいときか。
クリスマスに誰か大人にプレゼントを渡したところ、相手から「ありがとう。いいね、これ」と言われたら、相手はほぼ間違いなく「こんなものをもらってもなぁ。この人が帰ったら包み直して、どうでもいい人か、よく知らない人にあげてしまおう」と思っているだろう。
一般的に「いいね」はトロイの木馬のような言葉として用いられる。その言葉の本来の意味とは矛盾することを押さえつつ、それを表現するためだ。惰性的に「いいね」とコメントする場合を除いて、通常この言葉には軽蔑、失望、からかい、そっけなさといった含みがある。
トロイの木馬のような言葉はいくらでもあるし、すぐにそれと気づくものだ。たとえば、誰かがさりげなく「ところで」とか「もう一つあるんだけど」と切り出した場合、相手が重要な話を切り出そうとしていることに気づく。つまり、あなたは気づかなかったようだが、重要なのはついさっきまで話していた内容ではない方だと示唆する言葉だ。
「いいですね」は相手を侮辱する言葉
「おもしろい」はどうか? それは「おもしろくない」という意味だ。
「検討してみます」は「ありがとう。でも、もう検討済みで答えも出てます」という意味だ。
そして一目瞭然なのに、あちこちで見受けられるのが「失礼ながら」だ。もはや誰もこんな言葉では騙されない。にっこり笑って言おうが、顔をしかめて言おうが、「失礼ながら」が意味することを誰もがわかっている。つまり「あなたのような大馬鹿野郎に対して礼儀正しく振る舞いますが、ありったけの軽蔑を込めて言わせていただきます」といった意味になる。
よく知らない人から、もっと悪い場合には、あなたをばかにしている人からプレゼントをもらったときに、「いいですね」と礼儀正しく答えることがあるだろう。これは気のないほめ言葉で相手を侮辱しているのだ。公衆の面前でこき下ろしたくないときは、しぶしぶと「いいですね」と言ってやり過ごすものだ。相手を喜ばせる言葉だが、「もうこれで終わりにして、次の話題へ進みませんか?」と伝えたいときにも言う。使い勝手の良い言葉だ。