プーチンと“サシ”で会うことができる飯島

「サハリン2」の事例でもそうだったが、飯島が経営上、重要投資地域の一つと捉えているのが、ロシアである。4年ぶりに大統領の地位に返り咲くプーチンと“サシ”で会うことのできる数少ない日本人の飯島。そしてその飯島の思いを、現地で体現するのが、三井物産モスクワ社長、目黒祐志である。目黒は東京外大でロシア語、ロシアの政治経済を学び、三井物産入社後も研修生としてモスクワで学ぶなど、モスクワ在住が通年20年を超える「ロシアのエキスパート」だ。

三井物産モスクワ社長
目黒祐志

ここに、目黒が知る、飯島の仕事についてのエピソードがある。

目黒は、モスクワの駐在員として、旧ソビエト連邦が崩壊していくさまをつぶさに観察していた。その混乱の中、突然、英国のロンドンから来た飯島が、目黒の前に現れた。ロシアの製鉄所にビジネスを感じてやってきたのだ。

「これは、やってみないとわからないけれども、大丈夫(なビジネス)だよ。でも、全部相手に任せはしない。自分で必ず製鉄所を見にいくから」

崩壊していく旧ソビエトに購買能力はないが、何かしら売るものはあるはずだ。どの商社も動乱のロシアでビジネスをしあぐねていたとき、飯島は単身でロシアに乗り込んで、新しいビジネスチャンスを見つけ出そうとした。

飯島はつたないロシア語の通訳を連れ、白タクシーをチャーターしては、製鉄所を回った。タクシーメーターは、ゼロから動いておらず、通り過ぎるガソリンスタンドはどれもが閉鎖されていた。空港で拳銃を携行した警備員を雇って、製鉄所を回ったこともあった。そして、募る不安を払いのけ、積み込んだ銑鉄を鉄道で運び、ついに船積み契約までこぎつく。

案の定というか、物事は簡単には進まない。社内の審査部からOKが出なかったのだ。「ビジネスとして危険すぎる」と。ここからが、行動力だけでない“用意周到な”飯島の持ち味が発揮される場面である。

ロシアでは、ビジネスで「前払い」を要求されることも多くある。飯島は、通常の貿易に使用するB/L(船荷証券)の代わりに、より簡略化されたWay BiLL(貨物輸送状)を取ることで、審査部と交渉して、認めさせた。船積みより以前の貨物車両に詰め込んだ段階で、契約が発生する仕組みにした。そこには、輸送の途中で契約書が紛失したり、積荷の到着が遅れたりして、荷渡しができないリスクを回避する目的もあった。

「サハリン2」の現場に降り立ち、ガスパイプラインにサインをするプーチン大統領。
(Getty Images=写真)

それでも、荷がきちんと船積みされる保証はない。だから飯島は大正海上火災(現在の三井住友海上火災)と交渉して、新たに盗難保険をかけた。飯島は保険会社に、「そちらにとっても盗難保険は新しいビジネスチャンス」と持ちかけ、口説き、最終的には、ロシアのビジネスを成功に導いた。

話はまだ続く。このように苦労して得た荷を、飯島はライバル商社の丸紅などに売り払う行動に出たこともあった。なぜか。ロシアの通貨ルーブルが価値を失う状況で、ドルベースでは相当な利益が出ていた。それなのに、物産本社が飯島の提示した値段を買い叩いたためだ。

「より高く買ってくれるところに売る」

この行動は、当時、三井物産に導入されていたそれぞれの事業部による「独立部門採算制」だからできたというものの、商売人、飯島らしいエピソードだ。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(的野弘路=撮影 Getty Images=写真)
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