商社は、貿易から投資へとスタンスを変化させて、その姿を大きく変えている。コモディティ争奪戦に身を乗り出し、プレーヤーとして存在感を高めているのだ。飯島彰己社長は「人の三井」をどう変貌させようとしているのか――最前線に迫った。
ニーズに応えるのが、三井物産の使命
世界の経済大国へひた走った日本の一翼を担ったのが、「総合商社」であったことは、間違いない。
1876年に益田孝が設立した日本最古の総合商社、三井物産がその原型である。その成り立ちを遡れば、「いかに列強先進国に伍して日本が生き残っていくか」を負託された“国策会社”のような会社だった。
こうした生い立ちを持つ三井物産には、独特な「DNA」が残っている。
三井物産の2012年3月期の純利益は、4345億円。11年4~6月期(第1四半期)の連結純利益で見ると、1327億円。前年同期で3割弱の上昇で、四半期とはいえ長らく業界1位を走っていた三菱商事の連結純利益を抜いた。
しかし、アナリストやマスコミから指摘されたのが、「収益基盤の偏り」だった。利益の内訳は、「資源分野」の鉄鉱石、銅などの金属資源で700億円弱、原油、天然ガスなどのエネルギー分野で約400億円あまりを稼ぎ出している。残りの200億円強の利益が「非資源」で、非資源が全利益に占める割合が、2割にも満たない点を指摘されているのだ。
「うちの場合は“資源、エネルギーの一本足打法”といわれるんです。しかし、過去を振り返ってみても、投資を資源・エネルギー、非資源と分け隔てをしているわけではありません。世の中のニーズがどこにあるか。そのニーズに応えていくこと、強化していくことこそが、我々三井物産の使命だと思っています」
特にエネルギー分野には、思い入れがある飯島彰己。12年6月21日、社長として4回目を迎える株主総会で、
「2011年の3.11、それに連なる福島(第一)原発の事故」
と前置きした後、三井物産にとってのエネルギー分野への投資の意義、時代の要請として、次のように述べている。
「エネルギー政策は明らかに変化した。日本のエネルギーの安全保障を考えたとき、三井物産が全部は担えないとしても、『その一翼を担う』使命もあります。だから、この分野は当然、もっと強化していかないといけない」
2011年、国際エネルギー機関(IEA)が、「天然ガスの黄金時代が到来した」とレポートの中で指摘しているように、世界的に観測されている天然ガスの豊富な埋蔵量は、現在の旺盛な世界需要を十分満たすものと見られている。
福島第一原発の事故以降は、「エネルギールネサンス」ともてはやされた原子力エネルギーに急ブレーキがかかった。IEAが指摘するように、天然ガスやシェールガスなどに、世界的な資源確保の熾烈な競争は軸を移している。だからこそ資源、エネルギーへの投資は、“時代の要請”で、日本への“貢献”にもつながると、飯島は強調する。