「眼に飛び込んできたのは血の海」

2006年4月10日に不審死を遂げたのは、風俗店勤務の安田種雄氏。彼の当時の妻こそX子(木原氏の本妻)だった。

時折言葉を詰まらせ、沈痛な面持ちで当時のことを振り返るのは、安田氏の実父である。

「『居間のドアも開いていて、一歩足を踏み入れると、そこに息子の頭があったのです。「おい、この野郎。こんなところで寝たら風邪ひくぞ」と身体を起こそうとしたとき、足の裏を冷たいものが伝った』(父)

部屋の照明のスイッチを手探りでつける。眼に飛び込んできたのは血の海。そこに息子の亡骸が溺れていた。血糊に染まったタンクトップとカーゴパンツ。血飛沫は天井に達している。仰向けに倒れた安田さんは目を見開き、息絶えていた。実父の脳裏には、17年経った今もその光景が鮮明に焼き付いているという」

「『(管轄である)大塚署の警察官が駆けつけ、私は一階で事情聴取を受けました。気になったのが、X子と子供二人の存在。刑事さんに「どこにいるんですか」と聞くと、「本人は二階の奥の寝室にいたそうです」と言うんです』(父)

X子は警察の調べに対して、『私が寝ている間に、隣の部屋で夫が死んでいました』と供述したという。

『ナイフを頭上から喉元に向かって刺したと見られ、その傷は肺近くにまで達していた。死因は出血死。さらに安田さんの体内からは致死量の覚醒剤が検出された』(捜査関係者)」

「疑問点を考え出せばキリがなかった」

警察は覚醒剤乱用による自殺として片づけ、捜査を終了しようとしていた。

しかし、自殺にしては不審な点がいくつもあったと実父が語る。

「二階のテーブルと作業台の上で覚醒剤が入った約二センチ四方のビニール袋が発見されたのですが、不思議なことに血が付着していた。刑事さんに『なんで血がついているんですか。指紋は調べたんですか』と聞くと『検証作業をしている間に怪我をして血が付いたんじゃないですかね』と言っていた。それに自ら喉を刺したとすれば、なぜナイフが丁寧に足元に置かれていたのか。疑問点を考え出せばキリがなかった」

X子は葬式の時にも来なかったようで、ほどなくして彼女から電話があり、「私、遺体は引き取りません」といったという。

父親が彼女と話したのはそれが最後になった。

その後、X子は銀座でホステスになり、東大出身の元財務官寮で自民党の衆院議員1回生だった木原氏とめぐり逢い、結婚している。

しかし、2018年春、1人の女性刑事がこの事件に疑念を抱き、動き出す。事件当時、X子はYという男性と“親密”だったという。そのYが事件当夜、彼女の家の方向に向かっていたことがNシステムから判明したのだ。

当時、Yは覚醒剤取締法違反容疑で収監中だった。何度もYを訪ね、女性刑事らが粘り強く聞き取り調査をした結果、Yは「あのとき、X子から『殺しちゃった』と電話があったんだ。家に行ったら、種雄が血まみれで倒れていた」と証言したというのである。