一人の人間として、K少年を理解しようと努める

しかし、不安を感じるときこそ、関係を築くために努力しなければなりません。最初の2週間はほぼ毎日、その後も2日に1回のペースで面会するようにしました。

面会の際に、こころがけたことは、少年が起こした重大な結果については、いったん頭から追い出して、まずは一人の人間として、K少年を理解しようと努めることでした。

そのような接し方をしないと、見えるはずのものが、見えなくなってしまう気がしたからです。

これまでにも、なかなかコミュニケーションがとりにくい少年は経験してきました。そんな少年たちでも、粘り強く耳を傾け、アドバイスをすれば、たった4週間の鑑別所での生活のなかだけでも、驚くべき変化を遂げ、きちんと自分の言葉で話せるようになる姿を多く見てきました。

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最初の2週間はほぼ毎日、その後も2日に1回のペースで面会(※写真はイメージです)

面会中にやたらと身体をくねらせたり、急に突っ伏したり挙動不審

「ゆっくり、はっきりとしゃべらないと、意味が伝わらないよ」と伝えると、徐々にではありますが、K少年は、聞き取りやすい話し方をこころがけるようになり、会話も成り立つようになりました。

また、最初のころは、面会中にやたらと身体をくねらせたり、急に突っ伏したり挙動不審なところがありました。

そこで、「背筋は伸ばしておいたたほうが印象がいい。変わった動きをされると、なんか意味があるのか、とこっちが戸惑ってしまう」と伝えたところ、次回の面会からは、椅子に座っている間も、体育でやらされる「気をつけ」のような姿勢で、背筋を伸ばそうと必死に努力するようになりました。

必要以上に背筋を伸ばしているその姿は、微笑ましくもありました。そんな素直さも、間違いなくK少年のひとつの側面だったのです。