少数主義の「マイクロスクール」
――テック大国のアメリカでも、そうなのですね。
従来の学校では現状維持の力が非常に強く、テクノロジーを持続的イノベーションのツールとして使っている。
ひるがえって変革は、学校外で起こっている。コロナ禍以降、アメリカでは、少数主義の「マイクロスクール」(通常、15人以下のクラスから成る)の人気が高まり、急成長中だ。今や全米で最大200万人強の子供たちが、公立の学校制度に属さないマイクロスクールにフルタイムで通っている。
マイクロスクールでは、従来の学校とは大きく異なるやり方でテクノロジーを使っている。授業も生徒中心だ。従来の学区校にとって、マイクロスクールの広がりは変革への圧力になる。公立校もイノベーションを起こさなければ、全米の主要都市で進んでいる生徒離れが加速し、今後数年間で、さらに生徒が減ってしまう。
アメリカでは、非常に多くの生徒が、従来の公立校に代わる「ブレンディッド教育」系の学校を選んでいる。そうした大きなシフトを考えると、いずれ変革は起こるだろうが、まだ時間がかかる。既存の教育制度を維持しようとする力が強すぎるからだ。
オンライン学習やテクノロジーの導入に限れば、コロナ禍と共に「転換点」は訪れたと言えるが、学校運営という意味では、まだ訪れていない。生徒たちは、紙の教科書の代わりに(タブレット端末などの)テクノロジーを使っているにすぎない。
教育現場は予想以上に「現状維持」の力が強い
――変革まで、あと何年くらいかかりそうですか。
正直言って、見当もつかない。生徒中心の学び方への転換を阻む現状維持の力が、クレイトン(・クリステンセン教授)や私の予想よりはるかに強いことがわかったからだ。「マイクロスクール・ムーブメント」は実にエキサイティングだが、成り行きを見守る必要がある。
――生徒が主体性を持つことの重要性を強調していますね。
まず、教師は生徒に段階的にコントロールを与え、生徒がやるべきことを自分で見いだせるように手を貸す。そして最終的に、生徒が自分でゴールを決めて学ぶようなシステムへと移行していくのがいい。
自律的に学ぶ能力を養うことが大切なのは、社会に出てから世の中の急速な変化に追いつけるようにするためだけではない。子供たちが「成長マインドセット(思考)」やグリット(やり抜く力)、粘り強さの重要性を理解し、社会で実践できるようにするためでもある。
「知性は不変のものではなく、努力すれば賢くなれる」と先生たちは盛んに説くが、従来の学校制度では、成長思考や粘り強さ、やり抜く力が逆に損なわれてしまう。決められた期間内にカリキュラムを習得できない場合、学期末に悪い成績をつけられ、「この科目ができない」というレッテルを貼られるからだ。もっと時間をかければ習得できるかもしれないというのに。
従来のシステムは、成長思考や粘り強さ、やり抜く力という、身に付けるべき重要な考え方やスキルと相いれないものだ。教師が、その大切さをどれほど説いても、習熟が遅い子供に時間を与え、やり抜くことで成長できるという実感を生徒が持てるよう後押ししない限り、生徒たちは必ずしも先生の言葉など真に受けない。要は教師の行動だ。