「テクノロジーのためのテクノロジー」というわな

――ブレンディッド・ラーニングは、教育現場にデバイスやソフトを導入する「デジタル化」とは違うそうですね。その一方で、「混同しやすい」と。

ソフトウエアもハードウエアもコストが低下し導入しやすくなったことで、教育現場でも、デジタル化に拍車がかかっている。だが、どのようなツールを生徒に与えるべきか、ソーシャルメディアはプラスかマイナスか、といった点を考えなければならない。デジタルの世界でどのように責任を持って学び、スキルを構築し、そのスキルを使っていくかを教えるべきだ。

現代の子供たちは、インターネットと共に育った「デジタルネーティブ」世代だが、テクノロジーを生産的に使う方法を心得ているとは限らない。

――学校がデジタル化によって「テクノロジーのためのテクノロジー」というわなにはまることの危険性を指摘していますね。

教育×破壊的イノベーション(注)の共著者だった、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は生前、ソニー(2021年4月、「ソニーグループ」に社名変更)を例に挙げ、次のようなことを話していた。

注:『教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する』(翔泳社、クレイトン・クリステンセン、マイケル・B・ホーン、カーティス・ジョンソン・著、櫻井祐子・訳、2008年)

1955年当時、ソニーの前身だった東京通信工業(58年に「ソニー」に社名変更)は世界では無名だったが、新しいブランド名「SONY」のマークを付けた携帯用トランジスタラジオの発売で、一躍その名を世界にとどろかせた。

注:当時は真空管ラジオが主流であり、自社製の「トランジスタ」(半導体でできた電子部品)を使った携帯用ラジオは世界初。

アメリカの大手電機メーカー、RCA(1986年、米ゼネラル・エレクトリック〈GE〉によって買収)などが、トランジスタの代わりに真空管を使って後追いしようとしたが、バリュープロポジションの抜本的な転換にはつながらなかった。ソニーは、単に(自社製の)トランジスタを使ったラジオを開発しただけでなく、持ち運べるトランジスタラジオという音楽機器を手頃な価格で提供することに成功したからだ。

つまり、アメリカの電機メーカーは、自社だけが提供できる価値を生み出せなかったのだ。

オンラインでインタビューに応じるマイケル・ホーン氏
オンラインでインタビューに応じるマイケル・ホーン氏

テクノロジーを導入するだけでは変革は起こせない

これは、学校におけるテクノロジーの活用法にも当てはまる。黒板を電子ホワイトボードに置き換えるなど、テクノロジーの導入が文字どおり単なる導入にとどまっている「テクノロジーのためのテクノロジー」であってはならない。

(前編で)既述したように、世界が目まぐるしいペースで変わる中、学校のパーパス(目的・存在意義)も変化しつつある。子供たちが将来、急速に変わる世界で生きていくためには知識やスキル一式、社会とのつながりも教える必要がある。だからこそ、従来のパーパスを変えることなく電子ホワイトボードを使うだけではダメなのだ。

テクノロジーを使っても、工場型一斉授業を続けていては意味がない。生徒を十把ひとからげに扱い、一斉に同じ内容の授業を行うという従来の教育方法を続けている限り、子供たちには、自分に合ったペースで習熟する力が身に付かない。テクノロジーを使っているだけで、学習環境のプロセス自体は変わっていないからだ。

テクノロジーの活用は必ずしも悪いことではないが、それだけでは変革につながらない。