教室の前後がない「生徒主導型教育」

――教室に入って、どちらが「前」かわからなければ、その学校では、教師が黒板を使って教え、生徒がただ聞いている工場型一斉授業は行われていないと、指摘していますね。

現在、私の子供たちは、生徒主導型の「モンテッソーリ教育」(注)系の学校に通っているが、まさに『ブレンディッド・ラーニングの衝撃』で書いたように、教室に入ると、どちらが「前」か見分けがつかない。

注:イタリアに起源を発する、欧米で盛んな教育プログラム。アメリカン・モンテッソーリ協会(AMS)によると、異なる年齢層から成るクラス編成をはじめ、学びへの実践的アプローチや自律性重視、生徒の自由選択に基づく作業の継続を通して内因性動機付けや注意力の持続を促すことなどが特徴。

なぜ、前後の区別がつかないのか――。それは、生徒たちが教室のあちこちに散らばって学んでいるからだ。仲間と一緒に作業をしたり勉強したり、独学したりといった具合だ。教師が小グループの子供たちの輪に入り、一緒に学ぶこともある。

教師が教壇に立って生徒全員が黒板を見つめているという従来の授業とは違い、最も生徒主導型の教育と言える。子供たちは作業や勉強に没頭し、時には教室内を移動しながら学ぶ。こうした生徒中心の教育は、テクノロジーやオンライン学習によって、さらに実現しやすくなる。

海外の学校で生徒とテーブルに座っている先生
写真=iStock.com/monkeybusinessimages
※写真はイメージです

アメリカでも「教育の破壊的変革」は起こっていない

――『ブレンディッド・ラーニングの衝撃』の中で、学校が「デジタルトランスフォーメーション・デジタル変革」(DX)の転換点に近づいており、その転換点を機に世界中で学び方が果てしなく変わると、期待を込めていますね(序章)。故クリステンセン教授との共著『教育×破壊的イノベーション』には、アメリカの高校の授業は2019年までに、その約50%がオンラインで行われる見込みだという予測がありました(第4章)。

『教育×破壊的イノベーション』の出版から15年余り。『ブレンディッド・ラーニングの衝撃』の出版からも9年がたとうとしています。コロナ禍を経て、アメリカの教育界に「DXの転換点」は到来しましたか。

『教育×破壊的イノベーション』で予測したように、米教育界にテクノロジーの波が押し寄せたのは明らかだ。オンライン学習の成長は疑う余地がない。だが、学校運営や授業のやり方にも変革が必要だ。「テクノロジーのためのテクノロジー」や、バリュープロポジションなきRCA製ラジオの二の舞は避けねばならない。

そういう意味では、アメリカの学校でも、テクノロジーによる恩恵や利益は依然として限られたものでしかない。教育制度の変革につながっていないのだ。テクノロジーは米教育界に「破壊的イノベーション」をもたらしておらず、「持続的イノベーション」にとどまっている。