「不良品のために性能が悪い」はやさしいウソ

それに未来のテクノロジーがあれば、ドラミちゃんのような優等生ばかり造れるはずです。

ただドラミちゃんはたしかに優秀なのですが、その完璧さを見せられ続けると、のび太くんは「どうせぼくなんか」とやる気をなくしてしまう可能性があります。のび太くんにとって必要なのは、「優等生とはこういう人」という画一的な価値観を押しつけることでも、人類の助けが不要なほどに自立したロボット像を見せることでもないのです。

ほんとうは、のび太くんという存在に合わせて、ドラえもんが自らを最適化させながら、彼の自己肯定感・自己効力感を下げないように関係を築いているのではないか。「ドラえもんが自分自身を不良品と見なしている」という設定は、そのことをのび太くんに悟られないようについた「やさしいウソ」だったのかもしれません。

ロボットなのに失敗する。自分と同じように怠けたりする。そんな自らの弱さを見せてくれるドラえもんだからこそ、のび太くんは自分を卑下せずにも済む。ドラえもんが完璧とはほど遠い、時にのび太くんを必要とする存在であるからこそ、のび太くんはドラえもんと助け合うことに喜びを見出し、ともに生きる意味を見出すのです。

そうしてのび太くんは、ドラえもんたちといっしょに勇気を出して、新たな冒険に出ます。

その姿が映画となって毎年春に公開され、ぼくらも新年度を踏み出す勇気をもらうのです。

「知られているのが怖い」という感覚は合理的

将来、ロボットが人類の成長をサポートする重要な存在になることを目指して、LOVOTは誕生しました。

オーナーのデータを蓄積し、解析し、問題を解決してほしいという要望は多くありますが、その前に、まだまだやることがたくさんあると思っています。

たとえば、良い意味で「放っておける」、良い意味で「そこにいることを意識しない」、自然にそばにいる能力を磨くことも必要です。これまでのロボットはこの能力が磨かれておらず、ぼくらが積極的に構いにいくしかコミュニケーションの方法がありませんでした。結果的に時間を取られる感覚が勝り、電源をオフされてしまうものも多かったのです。

デジタル化が進めば進むほど、人類の行動をデータ化することはかんたんになります。たとえば「この商品を買った人は、こんなものにも興味を持っています」と表示されるレコメンド機能。自分が見過ごしていたような対象に出会える機会が増える反面、「なぜそんなことを知っているのか」と、怖さを感じる人もいるのではないでしょうか。

これは「自分がいつの間にか誘導されているのではないか」という不安とも言えます。また「レコメンドによって儲けようとしているだれかの意図を無意識に察知している」という意味でも、合理的な不安です。