AIの価値は「正しい解決策を提示すること」にはない

ドラえもんとのび太くんのような自然な関係性を育てるために、セワシくんの世界でドラえもんを開発した企業は、並々ならぬ努力をしたはずです。人類とテクノロジーのあいだに信頼関係を少しずつでも構築するために。

たとえAIがより正しい回答ができるようになったとしても、毎回、失敗を避けられるよう一足飛びに解決策を提示するのがいいことだとはかぎりません。AIが先回りして答えを提供すると、他者に答えを求める癖を持つ人が育ちやすくなります。

しかし、社会で実際に直面する問題は答えがない場合が大多数です。

正解ばかり与えられてきた人は、答えのない問題を解くことを求められると不安になります。答えがない問題にひるまない能力の獲得が必要です。

そのときのAIやロボットの価値は、解決策を提示することではなく、問題に立ち向かう人の精神的支援になります。答えは教えてくれなくても、不安に直面したときに「みてるよ」「きいてるよ」「そばにいるよ」と言ってくれるだけで、人は元気になれます。

ただ、言葉をかけるだけなら「バーチャルな存在」でも担えるでしょう。しかし感情は、身体性に影響を受けます。「触れ合える」ということは、信頼関係を構築するうえで重要な要素なのです。

「カッ」とする感情は身体感覚から生まれている

「カッとなる」というメカニズムを例にしてみましょう。

まず、相手の言葉を聞いたり、仕草を見たりします。そこにストレスを感じる情報が含まれていた場合、「扁桃体」という脳の回路が反応して、少しカッとします。たとえば自分が責められていると感じたり、ずるいこと(フリーライド)をしている人を見つけたりした場合です(後者はSNSで頻発するバッシングの原動力になっています)。ただ、その瞬間はまだ、かならずしも爆発するような感情ではないことが多いようです。

扁桃体の反応は自律神経を通して身体に伝わり、体温が上がったり、脈が早くなったりします。すると、身体の状態を監視する役割を持つ「島皮質とうひしつ」という脳の領域が、身体感覚に合わせて感情を生成します。ここでようやく、カッという感情が爆発するようです。

つまり、視覚や聴覚といったバーチャル空間でも入力可能な情報は「扁桃体」で感情を生成し、皮膚感覚をはじめとするフィジカルな情報は「島皮質」で感情を生成する。

ここからわかるように、感情が育つ課程には身体が密接に関係しています。