なぜ48歳・SEの男はセックスなしで貢ぐのか
「もう詐欺はやめなよ」
琴音との会話が終わったところで正したが、会話中は詐欺を咎めることはしなかった。批判もあろうが、琴音の告白をそのまま受け止めることが、僕が知りたい錬金術を紐解くことに他ならないからだ。
そして少し日を空けて、なぜ48歳・SEの男はセックスなしで貢ぐのかと、またいつもの喫茶店で琴音と議論した。要は彼女も妻もいない、社会のなかではもちろん、キャバクラでも相手にされない、でもカネはある男だからである。
そこにきて、出会いは売春であっても琴音は相手にしてくれる。売春婦と買春客。上中下のカーストの、琴音も男も一般的には下に格付けされ、下は下同士で対人関係を構築するしか道はない。
「誰かのためにお金を使って頑張ってる自分が好き」
むろん、下同士であっても力関係は生じる。いや、舞台女優でもある琴音は上や中でも生きられる面があり、相手より優位に立ち回るために下まで降りてきているだけなのかもしれない。これが僕の見解である。
印象に残っているのは、琴音も僕に同調し、その上でさらに生々しく分析してみせたことだ。
「ホス狂いと一緒でさぁ、誰かのためにお金を使って頑張ってる自分が好きなんだよ。貢いでいるだけとわかっていても、私にお金を使うため切り詰めて生活してる自分が好きなんだよ。アイドルに走る男も多いよね。でも、大衆のなかのひとりじゃなくて、自分だけが独占したいんだと思う。だから、お金はもらうし、セックスもしないけど、できるかぎり疑似恋愛してあげてる」
男をホス狂いだった過去の自分に重ね、偽りの愛情を注ぐという琴音の姿は、担当との蜜月時代そのものに見えた。