結婚によって失うもの

これらの調査結果は、結婚は多かれ少なかれ試してみる価値があるのかどうかという議論を考えるとき、特に重要なものだといえる。

失うものがあるわけじゃない。うまくいかなかったら、別れて、カップルでいるのをやめればすむことなんだから。

そう思う人もいるかもしれないが、しかし、その答えはこうだ。どうやら、失うものはたくさんある。

多くの研究からわかったことだが(※15)、結婚は私たちを「離婚する」「相手に先立たれる」というリスクにさらすだけではない。それ以上に重要なのは、私たちは結婚することによって、将来シングルとして生きることに対して準備のできていない人間になってしまうということだ。

結婚したことのない高齢のシングルの人たちはもともと、配偶者を失ってシングルになった人たちよりも、ひとり暮らしに順応できている。いろいろな物事への対処の仕方も知っている。支援のシステムも確立できている。彼らは良くも悪くも、妻あるいは夫に依存して生きてきたわけではないからだ(※16)

また、長い年月、シングルとして生きてきた人たちは、高齢になってから離婚した人たちや配偶者を亡くした人たちと比べれば、突然ひとりぼっちになったという烙印らくいんに苦しめられることはない(※17)

なぜ人は結婚に伴う「長期的リスク」を考えずに結婚するのか

結婚したカップルが、婚礼の直前・直後に以前よりずっと幸福になったように感じる論理的根拠としては、結婚がシニア期に備えるための「魔法のソリューション」だと思われることもあるだろう。

しかしながら、統計的には30歳前後で結婚する人たちが感じていることと、その40年後、つまり、結婚によって安心な身の上になっていたいと人々が期待した年齢に抱く孤独感のあいだには、まったくなんの関連もないことがわかっている。

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ほとんど逆説的といっていいだろうが、こんにちの人口統計と結婚に関する統計からみるなら、結婚したから高齢になってもパートナーがいてくれるはずと期待していた年齢に達したときには、離婚したり、配偶者に先立たれたりするリスクがどんどん増えていくのだ。

これを聞いて、こう尋ねる人もいるかもしれない。それなら、なぜ人々は長期のリスクを考えもせずに結婚しているのか、と。この質問に対しては、2つの回答ができるだろう。