悪魔の誘惑

桜木さんは実家を出て、関東にある会社の寮に入った。同期の40人中、約半数ほどが寮で暮らしていた。桜木さんは入社後、寮で暮らす同期2人と仲良くなり、最初の休日にそのうちの一人に誘われてパチスロ専門店に行った。

「彼は高専卒で、学生時代からスロットをやっていたため、その時すでにある程度の知識がありました。僕も、高校時代の仲間にスロットをやっていた人がいたので、スロットについて全く知らないわけではありませんでした。その当時は、初代パチスロ『北斗の拳』がフル稼働していた時代で、僕もその台についてはある程度知っていました。ただ、実際にホールで打つのは初めて。親から渡されていた1カ月分の生活費を元手に打ち始めたところ、全部でいくら使ったかは覚えていませんが、その日は2万円くらい勝ったと記憶しています」

それからというもの、桜木さんはその友達と毎日のようにつるみ、時間さえあればスロットに行くようになっていた。

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「最初は目押しもできず、台の知識もない僕は、なぜ勝ったのかはよくわかりませんでした。でも、めちゃめちゃ楽しくて、戻ってきたお金にかなり興奮したのを覚えています。その後はどんどん目押しもうまくなり、知識もつけ、自分の力で当たりを引き込んでいる気分になっていきました」

目押しとは、リールの回転にタイミングを合わせて、好きな図柄を狙って止めるテクニック。リールは、パチスロ機に搭載されている図柄が描かれたパーツを指すようだ。

桜木さんは、次第にその友達とのお金の貸し借りをするようになり、徐々に投資する金額が増えていった。

同じ頃、新人研修などで同期で集まる機会が多い中、気になる女性ができた。新入社員歓迎会で仲良くなり、その後、何度か食事などに出かけ、桜木さんから告白して交際が始まった。