部屋は真っ暗、シャワーは水
しかし、それでも結局、借金返済をせず、桜木さんはパチスロに明け暮れた。
「当時の僕は、恐ろしいくらいにパチスロに全てを賭けていました。バイト中もスロットのことばかり考え、ホールを巡回している時に異常にパチスロが打ちたくなり、早退してパチンコ屋に直行したこともありました。とんでもないアホですね……」
携帯は以前から滞納を繰り返していたが、家賃と光熱費までも滞納するようになった。会社の寮にいた桜木さんにとって、家賃や光熱費は負担に感じていた。電気代、ガス代を滞納し続けていると、2カ月後には、ついに完全に止められた。水道代は、半年分くらい滞納しても止められることはなかった。
部屋は真っ暗、シャワーは水という生活が何日か続き、さすがにまずいと思った桜木さんは、会社員時代の同期の友人にお金を10万円ほど借り、光熱費を支払った。
だが、このときも桜木さんは、友人から少し多めにお金を借りて、余った分は全てパチスロに使ってしまった。
一方、家賃を2カ月滞納すると、連帯保証人の両親に連絡されてしまう。すぐに両親から、「どうなっているんだ?」と問い詰められたが、「口座にお金入れとくの忘れてた」とバレバレの嘘をつき、その後なんとか家賃を払い、同期から借りた10万円も返した。
同じ頃、「別に好きな人ができた」と彼女に別れを告げられる。
「フラれた理由は、私が会社を辞めた頃から、彼女とはマンネリ化していたことと、ギャンブル三昧と借金で将来が見えないことに不満を抱えていたからだと思います。ちなみに、3カ月ほど浮気されていました。『最近、朝帰りや飲み会が多いな』と感じていたときに、その彼の存在を知ったのですが、彼女は、新しい彼のことを、『とても魅力的な人』と言っていました」
パチンコ屋のバイトを始めた約1年後、玉運びが原因で腰痛がひどくなり、仕事ができなくなってしまい、退職。ガソリンスタンドのバイトだけでは、月7万円くらいの給料しかもらっていなかったため、「パチスロだけなら玉運びがないから大丈夫だ」と思った桜木さんは、すぐに近くのパチスロ専門店でバイトを始めた。
合わせて月15万円ほど稼いだが、パチスロに使うとほとんどお金は無くなり、いつものように家賃や光熱費を滞納。そしてまた電気とガスが止まり、最悪の状況に。さすがにこの頃の桜木さんは、精神的に落ち始めていた。ある日、パチスロ専門店のバイトを無断欠勤。その夜に入っていたガソリンスタンドのバイトも無断欠勤してしまう。
「もうどうにでもなれ状態でした。バイト先から連絡が入りましたが、全て無視しました。そのあとも音信不通を続け、バイトは両方ともクビになりました。それまで働いた分の給料はもらえたので、最後に職場に取りに行きました。さすがに借金地獄で困っているとは知らず、みんな『大丈夫か?』と心配してくれていましたが、彼らの顔は引きつっていました。そりゃそうでしょうね。人としてあり得ない行動ですからね……」
両親も、息子の異変に薄々気付いていたのだろうか。ちょうど同じ頃、両親から「実家に戻って来い」と言われる。桜木さんは、「もうこのままだと人生ダメになる」と思い、借金180万円を抱え、北海道の実家に戻る決意をした。(以下、後編へ)