畑村洋太郎式文章術

工学院大学教授
東京大学名誉教授
畑村洋太郎

1941年、東京都生まれ。66年日立製作所入社。68年東京大学工学部助手。83年同教授。2001年畑村創造工学研究所開設。著書に『技術の創造と設計』『みる わかる 伝える』ほか。

世の中には頭のいい人がたくさんいます。ただ、彼らがみな創造的な仕事をしているとは限りません。それはなぜか。一度解いたことのある問題を解くことは得意でも、何を解けば新しい価値を生み出せるのかという課題設定を苦手としている人が少なくないからです。

いま社会が求めているのは、与えられた問題を解く「課題解決力」(HOW)ではなく、事象を観察して何が問題なのかを見抜く「課題設定力」(WHAT)です。いくら解法を知っていても、解くべき問題を間違えていたら、成果を挙げることはできません。

文章についても同じことがいえます。上手に書けるだけでは、あまり役に立ちません。価値のあるものをテーマとして設定してこそ、はじめて人に読んでもらえます。文章について悩む人は、どう書くか(HOW)に心を奪われがちですが、いま考えるべきは、何を書くか(WHAT)という問題なのです。

では、どうすれば価値あるテーマを設定できるようになるのか。それは自分の目でものを見て、考えて、決めて、行動するしかありません。何を解くべきかを教えてくれる人は誰もいません。自分で仮説を立て、試行錯誤を繰り返して課題を見つけていくほかないのです。

最初は課題設定で間違うことも多いでしょう。しかし、仮説と立証を繰り返すうちに、自分が大事にしたい価値、あるいは社会が求めている価値が見え始め、課題設定の精度やスピードが向上していくはずです。

(村上 敬=構成 相澤 正、熊谷武二=撮影)
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