学校健診も国家の戦争推進が目的だった

わが国の歴史を振り返れば、医療・衛生行政で、国民の健康より国家の都合を優先した事例は枚挙に暇がない。

前述したように、厚生省は昭和13年、内務省から分離した。陸軍省の要請を受けてのもので、筆頭局は体力局だった。国民体力法を制定し、徴兵制度を推し進めた。長らく、学校健診で座高が測定されたのは、当時、重心が低い、つまり足が短い人ほど兵隊に向いていると帝国陸軍が考えたからだ。学校健診まで、健民健兵政策の一環だった。

敗戦後、厚生省は、陸軍省や海軍省を吸収する。そして、陸海軍病院は、厚生省が所管する国立病院と看板をかけかける。それまで、国家の戦争推進を目的に掲げた官僚組織が、患者のための病院に変わるのは難しい。

補助金コロナ前の28倍も、病床受け入れ率は65%

コロナ禍中に贈収賄事件で警視庁捜査二課が立件した国立病院機構は、その典型例だ。

2021年度には、コロナ前の28倍の1317億円の補助金を受け取ったが、第7波のまっただなかである2022年8月3日現在のコロナ病床の受け入れ率は即応病床と届け出たものの65%に過ぎず、国民の期待を裏切った。

コロナ禍での厚労省傘下の病院・研究機関では、国立国際医療研究センターや国立保健医療科学院でも、同様の不祥事が立件されている。おそらく氷山の一角だろう。組織全体が腐敗していると言っていい。これが、わが国のコロナ対策を仕切った厚労省直轄の組織の現状だ。

コロナ禍で、厚労省や周囲の専門家は、「日本の病院を守るため」との理由で、国民が検査や医療を受ける権利を制限した。患者と国家の間で軋轢が生じれば、医師は患者の味方をしなければならない。これはギリシャ・ローマ時代以来のプロフェッショナルとしての医師の責務だ。こんなことを真顔で言う医師は、世界にいないと言っても過言ではない。彼らが、こんなことを言って平気だったのは、国民の権利より、国家の安定を優先するのが、旧内務省以来の日本の公衆衛生行政の内在的価値観だからだろう。