渋谷教育学園渋谷中学高等学校 高際伊都子先生

ファラデー『ロウソクの科学』(KADOKAWA、三石巌:訳)

●論理的に考えるってこういうことかとわかります

渋谷教育学園渋谷中学高等学校 高際伊都子先生(出所=『プレジデントFamily2023夏号』)

自宅にたくさんの本が揃っていたこともあり、私は子供時代から本が大好きでした。小3のときは、学校の図書館にあったアルセーヌ・ルパンのシリーズ全巻を読破し、小5のときは『平家物語』(岩波現代文庫)の現代語訳にハマりました。伝記本がマイブームのときもありました。

表紙や書名から直感でピンとくる本を選んで、やっぱり面白かったとか、ちょっと残念とか、そうした本との出合いを楽しんでいたので、人に薦められた本を読むタイプではなかったのですが、小4の夏休みの学校の推薦図書『極北の犬トヨン』(徳間書店)は強烈に刺さりました。

厳寒のシベリアに住む猟師一家とトヨンという名の犬が大自然の中で助け合い、互いの絆を深めていく話。著者の実体験に基づいた物語で、「地球上にはいろんな環境があって、いろんな人がいるんだ」「昔話でもなくおとぎ話でもなく、今に近いリアルな話が物語になるんだ」、そして「生きるって大変なことなんだ」と、小4の私に強烈に響いたのです。自分では選ばない本だからこそ、新しい視点を得たのだと思います。

どんな本にも、次の世界の扉を開ける力があります。だから、ジャンルを問わず、いろんな物語、知らない世界に触れてほしい。そんな気持ちを込めて、今回お薦めするのが、角川文庫の『ロウソクの科学』です。

1861年に出版された古典的名著で、イギリスの科学者マイケル・ファラデーによる科学好きの大人に向けた講演録ですが、小学生でも読める内容です。いえ、小学生にこそ読んでほしいと思います。

ロウソクの火はなぜ燃えるのか。それは、空気中に酸素があるから。でも、酸素は見えないのに、なぜそう言い切れるのか。それを、ファラデーは実験に実験を重ねて、論理的に証明していきます。ロウソク1本で、科学的思考の入り口を教えてくれるのです。

理屈だけで物事を理解した気になっていた大学生の私は、本書に出合い、盲点を突かれた思いでした。論理的に考えるって、こうやって事実を積み上げていくことなのだと。

今の時代、インターネットで検索したり、AIに問いかけたりすれば、答えはすぐに見つかります。でも、それで終わりにせず、「それって、本当かな?」とちょっと疑って、自分でも確かめてみることが、今後ますます必要になるのではないでしょうか。

そのときに必要なのが、論理的な思考です。理系文系を問わず、事実を積み重ねて論立てていく作業や、プロセスを経て検証していく姿勢は、これからの時代を生きる子供たちにとって必要不可欠なものです。本書はそうした力を養ってくれるはずです。