「伝えたいこと」を編集する

投げかける相手が変わると、関係づけるものが変わる。だからこそ、魅力(意味や価値)が変わるのです。

じつはここには「編集という営み」が関係しています。

「白いコピー用紙」と、「ペン」「ハサミとのり」
「ぼく」と、「読者のみなさん」「娘」「スタートアップ企業」

それぞれで起こっているのは、「関係性のなかでのものごとの価値化」です。

ぼくはこれこそが「編集の基本原理」であると考えています。

つまり、ものごとの意味や価値は、編集によって(もしくは編集が起こることで)生みだされているのです。

ここでいう「編集」は、よくいわれるような「本や雑誌をつくること」でも、メディアの運営をすることでもなく、もっと本質的で、本来的な意味の営みです。

編集者と呼ばれる人たちが、さかんに自分たちの仕事を「編集」と呼ぶせいか、「編集は出版やメディアの仕事のこと」と思われがちなのですが、本当のところはそうではありません。

映画のエンドロールを見ても「編集」という役割の人たちがたくさん出てきますし、テレビのバラエティ番組では、すべったコメントをしてしまったお笑い芸人が、指をハサミのように動かしながら「編集でカットしてください」といったりもします。

スマートフォンのアプリのメニューをみても「編集」という言葉がならんでいます。

どれもまぎれもなく「編集」です(そして、これらはかならずしも「出版やメディアの仕事」ではありませんし、「本や雑誌をつくること」でもありません)。

これらの営みは、共通して「関係性のなかで、ものごとを価値化する」という原理を活用しています。

写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

映像の編集および番組の編集では、撮ったカットを関係性のなかで意味づける。

画像の編集では、明るさや色調といったパラメーターの関係性のなかで画像の価値を変える。

出版やメディアの編集も、もう少し複雑で複合的ですが、基本は同じです。たとえば、メディアでのニュースの扱いにかぎっていえば、読者もしくはテーマ、コンセプトとの関係性のなかで価値を規定していきます(だから、同じ出来事を扱っても媒体によって語られ方がちがってきます)。

ものごとの意味や価値が規定されている背景には、この編集の原理があるのです。

関係性のなかで、ものごとを価値化する

ちなみに、ここでいう関係性(厳密には共通性)こそがコンテクストや文脈と呼ばれるものです。コンテクストが設定されるから、ものごとの意味や価値が規定される。

つまり編集とは、「コンテクストをあやつって、意味や価値をコントロールする営み」。ふだんぼくは編集家として、この編集の原理を意識的に駆使して、さまざまな課題の解決に取り組んでいます。

実際にはもっと細かなメカニズムや方法論があるのですが、本書のテーマはそこではないので、編集話はこのへんにするとして……、ここで注目したいのは、編集の基本原理の部分です。

「関係性のなかで、ものごとを価値化する」

前置きが長くなりましたが、「伝えたいこと」の「伝えられたいこと」への変換も、この編集の基本原理をもとにおこないます。

詳しい手順については次章でお話ししますが、「伝えたいこと」を関係性のなかで再解釈して「伝えられたいこと」を導きだす、ということです。

〈メッセージ〉は編集によって生まれるものなのです。