LGBTQの話題を扱う米『アドボケート』誌は、ただでさえ中国でのデータ管理体制に疑念が噴出しているTikTokにおいて、不信に輪を掛けるスキャンダルになったと断じる。

同誌は、オンライン広告の自主規制基準を策定している代表的な業界団体のひとつであるNAI(ネットワーク・アドバタイジング・イニシアチブ)の指針により、こうした扱いは禁じられていると指摘する。NAIは2015年以降、広告配信のためユーザーがLGBTQ+であると識別する行為を禁止しているという。

大手動画プラットフォームやソーシャルメディア各社は、この分野の個人情報の収集に極めて慎重な姿勢を示しているが、TikTokは従っていなかったというわけだ。

写真=iStock.com/P. Kijsanayothin
※写真はイメージです

米テックメディア「フューチャリズム」の短編記事セクションである「バイト」は、この問題の異質さを指摘する。

同記事はまず、ソーシャルメディア各社は一般に、ユーザーの個人情報や好みの動画ジャンルなどを把握し、パーソナライズされたターゲット広告の表示を行っていると認めている。しかし「(一般的な)ソーシャルメディアは、性的指向など扱いに注意を要するあらゆるデータの収集を控えている。なぜならこれらのユーザーが標的となる恐れがあるからだ」と解説している。

TikTokのデータ管理体制は業界の基準を大きく逸脱し、デリケートなデータを多くの従業員が閲覧可能な状態で杜撰ずさんに管理していた。バイトは記事のなかで、「中国資本の企業内の、異常な数の従業員がアクセスできた」こと、さらには「中国の従業員がリストの権限を管理していた」ことに注目し、このリストの疑惑は際立ったものだと論じている。

「視聴履歴は性的指向を示すものではない」と釈明

ByteDance社はウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に、リストはあくまでユーザーの視聴傾向を示すものであり、本人の性的指向を示すものではないと釈明している。例えば、パン作りの動画を閲覧したユーザーが、必ずしもパン職人だとは限らないのと同じように――との説明だ。だが、実質的にはLGBTのユーザーを管理するリストとなっていたと指摘されても仕方ない状態だったのではないか。

リストの存在は、中国国外の従業員たちには異質に感じられたようだ。FOXニュースは、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの従業員が、上級幹部に対して懸念を表明していたと報じている。「データが他の集団に共有されたり(社外へ持ち出されたり)、ユーザーへの『脅迫』に使われたりする恐れがあると警告していた」と同紙は述べている。

これに対して中国国内では、従業員は視聴データの収集をことさらデリケートな問題と認識していなかった。中国国内からこうした声が上がることはなかったという事実からも、巨大アプリのモラルの低さが懸念される。