過激な活動を支えるプリゴジン氏の「後ろ盾」
一方で、プリゴジン氏がこれほど奔放に活動できるのは、政権内部に強力な支持者がいるためといわれる。
女性政治評論家、タチアナ・スタノバヤ氏は米カーネギー財団のサイトで、「プリゴジンが大統領府との関係を築いたのは、コワルチュク兄弟という後ろ盾がいたからだ」と書いた。
弟のユーリー・コワルチュク氏はロシア銀行会長で、金融を牛耳り、メディア王と呼ばれる。コロナ禍でも大統領と頻繁に会い、独特の愛国史観でウクライナ侵攻をけしかけた黒幕とされる。
スタノバヤ氏はまた、プリゴジン氏が軍の情報機関、参謀本部情報総局(GRU)と密接な関係を持つと指摘した。ワグネル自体、2015年のシリア内戦参加を前に、軍の別動隊としてGRUが組織。資金力のあるプリゴジン氏に指揮を依頼したとされる。国防省の反ショイグ勢力が、プリゴジン氏を裏で支えているとの説もある。
プリゴジン氏は1990年代、サンクトペテルブルクで食料品チェーンやレストランを経営する傍ら、闇カジノを運営していた。当時、闇カジノ撲滅を担当したのがプーチン第一副市長で、プリゴジン氏の闇カジノが営業を続けられたのは、両者間に闇の癒着があったためと独立系メディアが報じていた。プリゴジン氏は大統領の弱みを握っている可能性がある。
来年3月の大統領選に出馬か
東部バフムトで激戦を演じたワグネルは5月に撤退し、現時点で戦闘に参加していない。プリゴジン氏は今後、政界進出を目指すとの憶測も強まっている。
プリゴジン氏は野党第2党、公正党のミロノフ党首と関係を強化しており、いずれ公正党を乗っ取るとの見方がある。政治評論家のエカテリーナ・シュルマン氏は、昨年死去した極右扇動家、ジリノフスキー自民党党首の役回りを担うだろうと述べた。
ロシアのネットメディア「ストラナ」(5月11日)は、プリゴジン氏が2024年3月の次回大統領選に出馬する可能性があると報じた。最近の動画やSNS発信は、選挙キャンペーンを思わせるという。下院に議席を持つ政党は無条件で大統領候補を擁立でき、出馬の場合は公正党推薦になりそうだ。
ロシアのネット報道によれば、次の大統領選で誰に投票するかを問う5月10日の電話調査では、プーチン大統領が42.5%、プリゴジン氏は39.7%で僅差の2位に付けた。3位のミシュスティン首相(1%)以下は泡沫候補だったという。調査を実施した機関は不透明で、必ずしも信用できないが、プリゴジン人気の高揚をうかがわせる。