日本語の文章そのものがわかりづらい

民間でビジネス活動に従事していた私には常識的なことばも、彼らはふだん使いしないため、理解していないのです。これはしかたないのかもしれませんが。

また、これも人によるのですが、報告書の作成法も指導されていないのか、日本語の文章そのものがわかりづらい文書案もままある。

それが途中でチェックもされぬまま、私のところまで上がってきます。

誤りを指摘し、書きなおしを何度も命じました。

そこまででない場合は、「大使は添削係かよ」と内心ぶつぶつ言いながら、私が用語と文章を修正したり、「てにをは」を正したりもしました。

公電の中には、「本使電(本使は大使の一人称)」と呼ばれる、大使の意見を述べる報告書や要望書もあります。

こちらは逆に、私が作成する場合は本省内で使われる用語をよく知らないため、本官たちにチェックしてもらうこともありました。

特に、ふたり目の次席(着任時の次席の後任。ノンキャリアの女性)には、言いまわしや用語の添削で世話になりました。

この女性次席は非常にまじめな人で、対外的な交渉ごとにも大使館内統括業務にも前向きに取り組んでくれたので、大いに助かりました。

公電案が意味不明すぎて「ボツ」

公電案が意味不明すぎて「ボツ」にしようと言っても、最初の次席は「担当者は一生懸命作成しているのだから、そのまま報告したい」とか、「今までこれでやってきているから」というお決まりのことばを発していました。

目をつぶって承認することも多々ありましたが、受け取った本省だって困るだろうとどうにも納得がいかないのが本心でした。

樋口和喜『商社マン、エルサルバドル大使になる』(集英社インターナショナル)

そこで本省と打合せする機会があった際に、「書く側が専門的な内容をわかっていないので逐語訳しかできず、読んだ側が理解できない報告が多い。このままでは流し読みされるだけで報告の意味がありません。現場で内容を理解させて意訳でもよいからわかりやすい日本語で報告するべきだと思うがどうでしょう。現状では無意味な情報過多を招くだけです」と問い合わせたところ、そのとおり、という返答をもらいました。

努力しましたが、在任中にめざましく意識改革できたとは言えません。

また、見るところ、他の大使館までなにか指導なり指示なりがあったようには思えませんでした。

私の常識と大使館の常識のギャップでストレスを感じたできごとでした。

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