日本政府の外交は本当に機能しているのだろうか。元エルサルバドル大使の樋口和喜さんは「前例踏襲を固守するあまり、業務全体がきわめて非効率化していた。経済や産業界の専門用語を知らないため、意味のわからない直訳文が公電案として上がってきた」という――。
※本稿は、樋口和喜『商社マン、エルサルバドル大使になる』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
「そんな新しいことをしていいのですか」
面談と並行して、各本官(=外交官)から業務に関するブリーフィングを受けていましたが、そこで気づいたのは「資料作成の効率の悪さ」でした。
過去に何度も使ったのと同じような資料を一から作りなおしている、数字データも一から調べなおして作成している。結果、作成にえらく時間がかかる。
各人がふだんから担当部門の資料やデータを管理して、適宜アップデートしておけば、必要になったときすぐに提示できるのに。
もちろんデータ管理をきちんとしている本官もいましたが、ほとんどは非効率的な仕事をしていました。
それを指摘すると、ある本官は「そんな新しいことをしていいのですか」と驚くではないですか。
「改善」ということばを知らない者が館内を統括していた
聞けば彼は非効率的な作業を改善したかったが、「今までこうしてきた(データ管理などせず、一から作成してきた)のだから、そのやりかたを守れ」と言われてきたようです。
いわゆる「改善」ということばを知らない者が館内を統括していたことから本官は「前例踏襲型」で物事を処理せざるを得なかったことが背景にあったようです。
「本省からの訓令があれば仕事をする。それ以外はなにもしなくてよい。余計なことはしない」ということばを当時の次席(キャリアで私とそんなに歳は離れていません)から聞いたときは仰天しました。