OBの天下り斡旋は「公然の秘密」

小泉純一郎内閣や安倍晋三内閣では、「身を切る改革」が繰り返し叫ばれた。政治家自身、あるいは公務員制度改革で、永田町や霞が関の無駄を排除していく。まずは政治家と官僚が姿勢を正すことから財政再建は始まると訴え、国民は高い支持率を与えたのではないか。岸田内閣になって「改革」や「身を切る」という言葉はほとんど聞かれなくなっている。

岸田内閣は公務員制度改革にはまったく関心を示さず、むしろ公務員給与の引き上げや、定年の延長などに理解を示す。天下りにも寛容だと霞が関では見られてきた。

写真=時事通信フォト
首相官邸に入る岸田文雄首相=2023年6月5日午前、東京・永田町

現役官僚が天下りの斡旋を行うことは法律で禁じられているが、役所を離れた大物OBが中心になって天下り先を調整していることは公然の秘密だ。国土交通省の元事務次官で東京メトロの会長に天下っていた本田勝氏が、東京メトロとは何ら業務上の関係がない民間企業、空港施設の役員人事に介入、国交省出身の副社長を社長にするよう要求していたことが朝日新聞の報道で明らかになった。

当然の事ながら国交省の現役官僚たちは「知らなかった」と口を揃えたが、公表前の人事情報が省外に多数メール送信されていたことが明らかになった。結局、空港施設の副社長も本田会長も辞任に追い込まれたが、ほとぼりが冷めれば「国交省の利権」を人知れず復活していくのだろう。

かつての役人天国が復活しつつある

小泉改革を受け継いだ第1次安倍内閣は、天下り規制に踏み込んだ。成田空港を運営していた新東京国際空港公団のトップは運輸省(国交省)OBの指定席だったが、株式会社化した成田国際空港の社長には国交省の抵抗を押し切って住友商事の副社長を務めた森中小三郎氏を据えた。2012年にはJR東日本の副社長だった夏目誠氏に引き継がれたが、2019年には国交省で航空局長などを務めたOBの田村明比古氏が就任、国交省は失地を回復している。

そうした官僚のやりたい放題に国民の厳しい目が注がれているということだろう。もともと官僚の給与水準は「民間並み」が基本ということになっているが、幹部になれば別枠で、局長の年収は2000万円を超えるとされる。天下れば高給のほか高額退職金が待っており、かつての役人天国が復活しつつある。

政治家も官僚も、自らの利権を拡大するのではなく、身を切る改革に挑んでこそ、財政再建が達成できる、と多くの国民は考えているのだろう。ちなみに同じ調査で、消費税については経済学者の半数以上が税率を引き上げるべきだとしたが、国民は4割が現状維持、4割が税率引き下げか廃止を求めていた。政官が身を切らずに国民に負担を押し付けるのはけしからん、ということだろう。

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