「使える核」の時代が戻ってきた
核兵器による攻撃を抑止するのは、実のところ、核兵器しかない。何十万人という単位で人を殺戮する兵器であり、攻撃すれば、即反撃される兵器だからだ。
冷戦時代は、米国、ソ連のどちらが先に手を出しても、お互いを破壊し尽くす「相互確証破壊(MAD)」という事態になり得るため、核抑止力が働いてきた。
冷戦後の現実は「使える核」の時代の再来だ。ロシアは、2009年の軍事ドクトリンなどで、通常兵器による大規模侵略を受けた結果、国家の存立が脅かされた場合に「地域的・限定的に使える核」としての戦術核を使って先制攻撃する可能性に言及した。その延長線上で、プーチン氏は15年3月、クリミア編入1年後に「核戦力を戦闘態勢に置く準備があった」と明らかにしている。
日本の戦略的価値が再計測される
トランプ前米大統領も2018年2月、米核戦力体制見直し(NPR)で、通常兵器による攻撃にも「核の使用」を排除しない、小型核兵器を開発するとの方針を打ち出した。バイデン政権も、当初は否定的だったが、22年10月のNPRでこれを踏襲した。
米国の核戦力が持つ、戦争を抑止する力の効果を同盟国に及ぼすことを拡大核抑止という。「核の傘」もその一環だ。その時の国際情勢やトップリーダーの考えによって機能するかどうかわからないところもある。
中国、北朝鮮の核軍拡が進む間に、米国からは「カリフォルニアを犠牲にしてまで、東京を守るのか」などと、日本の戦略的価値が再計測されてもいる。今のままでは、核抑止が「万全」というわけに行くまい。