バブルを放置した失敗を繰り返すのか

バブル当時の日銀総裁だった澄田智氏は、退任後の2000年12月、『<真説>バブル』(日経BP社)という本の中で以下のように述べている。

「確かに87年ごろから東京の地価は2ケタの上昇率を示し、株価もかなり速いペースで上昇していました。それなのにすぐに金利引き上げを実行しなかったのは後から考えると、認識が不十分だったと考えるしかありません。そもそも消費者物価などの指標があまり過熱していないのに、のちにバブルと呼ばれる資産価格だけが上昇する現象は、日本では初めてのことで、世界でもそれまで指摘されていなかった現象でした。何よりも物価上昇やインフレといった言葉はあっても、バブルといった言葉はなかったのです。ただ、土地や株、それに書画や骨董といった資産の価額だけが急激に上昇している意味を早く見抜けなかったことについては、私がその責めを負わなければならないと思っています」

手痛い失敗をして澄田元総裁が反省をしたのに、植田総裁はその失敗を繰り返すことにならないのか。

これから深刻な狂乱物価時代がやってくる

ちなみに1986年から88年まで、資産価格が急騰し始めているにもかかわらずCPIは0.5%(生鮮食品を除く全国総合)と極めて安定していた。現在の日銀の目標である2%よりはるかに低い。

理由は、資産価格高騰というインフレ要因が円高騰で相殺されていたからだ。ドル/円は84年末の1ドル=251.58円から87年末の1ドル=122.00円まで3年間で129.58円も急騰している。強烈なデフレ要因だ。

現在のドル/円は円高どころか円安気味で、資産効果(株や不動産を保有している人たちがお金持ちになったつもりで消費を増やす)を加速させる方向に働いている。近い将来、バブル以上の、とんでもない狂乱物価時代がやって来るのではないかと不安になる。

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一見、国民にやさしい政策がインフレを加速させる

このように物価上昇が不気味な気配を見せているのにもかかわらず、政府はさらにインフレを加速させる政策を矢継ぎ早に打っている。

石油元売り会社への補助金支給などの燃料費補助政策は、燃料の需要を抑えるどころか逆に加速させている。また賃上げ促進もインフレを促す。

これらは一見、国民の生活苦に配慮し、国民にやさしい政策に思えるが、賃上げがインフレを加速させれば、実質収入の減少(労賃の上昇より物価高の方が大きい)により国民生活を窮地に追い込むことになる。欧米諸国とは逆向きの政策だ。