栽培ノウハウの最適解を5年で手中に

浅井社長は地元の三重大学大学院に入学し、トマトのゲノム育種の研究にも取り組んだ。約6年間在籍し、16年には博士号を取得。自身が「科学的な農業」に携わるための「リスキリング」であり、外部の研究拠点との交流を通じて、幅広く知見や人材を集めるためでもあった。現在標榜している「研究開発型の農業カンパニー」の実現に向けて、動き出していたわけだ。

農業の見える化が「第1フェーズ」だとすれば、「第2フェーズ」ではデータの解析の進化に取り組んだ。その結果、「PDCAサイクル」がうまく回り始め、事業開始から5年ほどで、トマト栽培の最適解を手に入れることができた。そこで、実だけでなく、葉や茎も含めたトマト全体の生育状況を把握したりするなど、見える化の精度をさらに高めていった。一方で、タブレット端末での作業指示、動画マニュアルの作成によって、パートの新入社員でもすぐに農作業をこなせるようにするなど、労働生産性の“平準化”にも取り組み始めたのだ。

写真提供=デンソー

デンソーが自働化の共同パートナー

さらに現在、「第3フェーズ」として、農業の自働化にも取り組む。4年前から4.2ヘクタールの実験ハウスで、トヨタグループのデンソーと合弁会社を設立しての共同実証をスタート。そのなかでは、産業用ロボットによるトマトの自動収穫、無人運送システムによるトマトの実や葉の搬出などのテストを行い、実装段階に入っている。

「とりわけ、重労働だったトマトの収穫や運搬作業が減り、労働時間を大幅に短縮できました。一方で、単位面積当たりのミニトマトの収穫量も全国平均に比べて4倍になり、それだけ農業生産性を高められたわけです。トマトは日照量の長い夏には冬の2倍収穫できるため、季節による作業量のバラツキが必然的に大きくなります。ロボットと手作業をうまく組み合わせることで、対応できるようになるのではないかと期待しています」

ちなみに、農林水産省の「2002年産野菜出荷統計」によると、ミニトマトの10アール当たりの全国平均の収量は5.88トンである。

写真提供=デンソー