トヨタ、ソニー、任天堂など大手顧客が多い

超高純度の半導体部材を繊細に調合して回路を形成し、基板から切り出し、ケースに封入する装置などに関しても、本邦企業は強みを持つ。世界の半導体大手企業が次世代のチップ製造体制を競合他社に先駆けて確立するために、わが国の超高純度、微細なモノづくりの力の重用性は高まっている。

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3つ目は、わが国には半導体大手メーカーの顧客企業が多いことだ。2022年まで3年連続でトヨタ自動車の新車販売台数は世界トップだった。電動化などを背景に自動車に用いられる半導体点数は急増している。ソニーのカメラや任天堂のゲーム機などもより多くのチップが用いられるようになった。

4つ目は、わが国政府が半導体分野での補助金を支給することである。2022年6月に政府は、TSMCなどによる工場建設に4760億円を上限に助成を行うと発表した。同年9月、政府は米マイクロンにも支援を行った。横浜におけるサムスン電子の拠点開設にも支援が行われるようだ。

地元の九州FGは純利益48%増

一連の対日直接投資は、わが国経済にプラスの効果を与え始めている。肥後銀行と鹿児島銀行を傘下に持つ九州フィナンシャルグループの2022年度決算では、純利益が前年度比48.1%増の約246億円だった。TSMCの進出に伴い周辺の不動産開発が増加して融資は伸び、利息収入が増加した。

工場建設を一つの起点に、新しい人の流れ(動線)が確立され、飲食、宿泊、交通などサービス業の裾野も広がる。工場の稼働によって労働市場も活性化する。戦略物資としての位置づけが高まる半導体の製造に関しては、専門人材の育成も急務だ。学びなおし機会の提供を含め、わが国の教育体制の強化も避けて通れない。迅速に半導体を調達して自動車や家電の生産を行うために、他の企業が近隣地域に生産拠点を設ける可能性も高まる。

熊本県におけるTSMCの工場建設は、直接投資が波及需要を生み出して経済が成長するということを確認する格好のケースだ。サムスン電子など他の半導体企業も供給網の強靭化、顧客との関係強化などを狙って対日直接投資を積み増す可能性は高い。