ミスをする選手のタイプを見極めろ

「ミスをする選手には大きく分けて2通りある。選択肢がいっぱいありすぎて判断が遅れてミスをする選手と、選択肢がなくて判断が遅くなってミスをするやつだ。おまえ、その選手がどちらになるかとか、その違いがわかるか?」

小倉は「いや、わかりません。わからないです」首を横に振るしかない。

「おまえの指示は全部同じなんだよ。選手がミスしたとき、理由は概ね3つある。状況を最後ギリギリまで見極めていたからプレーが遅れて(ミスが)起きたのか、選択肢がひとつしかなくてその判断を潰されたのか。3つめは、選択肢がたくさんあったから判断が遅れたのか。そんなふうに異なるミスをした選手を、おまえは同じように扱っている」

納得するしかなかった。

「おまえはもう指示を出すな。創造性のあるやつが下手になる」

その理由を聞いて理解できた小倉は「どうすればいいのか」と考え始め、その様子を見て取ったオシムは珍しく“アドバイス”をくれた。

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「そういう選手には、まず何が見えていたかを聞いてやることだ。そこで、選手はこれこれを見たと答えるだろう。ああ、そうかと受け止めてやればいい。次に同じミスをしないためには判断を素早くすることだ。プレーを早くひとつに絞らなくてはいけない設定をしたトレーニングをすればいい」

無駄な指導は選手のアイデアを潰してしまう

オシムが言った「その選手」は、水野晃樹だった。後に代表入りしセルティックでプレーした水野は「アイディアというか選択肢をたくさん持った創造性豊かな選手だった」(小倉)。その才能をオシムは見抜いていた。

「オグラ、おまえが言い過ぎると、あいつの選択肢が狭まる」

具体的に説明もしてくれた。例えばクロスを上げろとコーチが言い過ぎると、クロスしか上げない選手になる、と。水野は本来左でクロスも上げられるし、かわして右でも上げられる。ひょっとしたらワンツーを叩いて前に出て行ける。そんな可能性を持っているのに、小倉がそれを言うことによって水野の選択肢を狭めてしまう。

「言わば、選手のアイディアを潰してしまうわけだ。そういう指導はダメだ。その選手がどういう特徴を持ってるか、どういう才能を持ってるかっていうのをもっと見ろ。プロのコーチだったら、それぐらいのことをしなくてはいけない」

オシムは普段、コーチらと「レミー」と呼ばれるトランプゲームに興じながらサッカーの話をすることが多かった。かしこまってミーティングをやることはほとんどなかった。

「僕らがピッチに立ってるとやって来て、今日の練習はこうやったなとポロッという。水野の話をしたときも雑談の延長。立ち話です。でも、僕の頭には鮮明に残ってますね」