「国内製にするか、外国製にするか」常に迫られる

夫の仕事の関係で、日中間を往復している私の友人も、義兄がかつてある省庁のナンバー2という高官だった。その義兄が骨折して入院したときの話だ。

「手術にどんな器具を使いますか、と聞かれたそうです。『安い器具は国産だから品質が悪いですよ。錆びるかもしれませんから、高い器具でいいですか。高い器具は輸入品です。保険はききません』といわれ、義兄は通常の20倍の費用を払って手術してもらったそうです。

そこは有名な大病院。義兄はお金もコネもあったから、いい医者に診てもらえたのです。日本でも保険がきかないことはありますが、中国では日本以上に、保険で賄える範囲は狭く、常に医者から『国内製にしますか、外国製にしますか』と二者択一を迫られます」

その友人自身も定期的に血圧の薬を飲んでいる。

「知り合いに頼み、1カ月300元(約5700円)の薬を買っているのですが、平凡な血圧の薬でさえ、国内製か外国製かと聞かれます。

ほかに特権ルートというものも存在します。22年に江沢民元国家主席が白血病で亡くなったことが報じられましたが、義兄から聞いた話では、江氏にかかった治療費は1億元(約19億円)を下らないだろう、という話でした。まさか、と思いますが、本人が支払うわけではなく、すべて政府のお金です。

医薬品に限りませんが、『中南海(政府要人の居住地域)』にいる人々には『特別供与』というものがあり、どんなものでも入手できるそうです」

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大金を稼いでも中国では手に入らないものが日本にはある

このように、ごくわずかの特権階級の人々を除き、中国では相当なお金を出しても、十分な治療をしてもらえないこともある。コロナ禍でロックダウンされた都市では、数億円の資産がある富裕層でも救急車を呼ぶことさえできなかった。

中国の人々がお金儲けに熱心なのは、いざというときに大金が必要になるからだが、たとえ大金があっても、手に入らないものが多い。そのため、富裕層の中には、外国人であっても、お金を払えば高度な医療を提供してくれる日本に、健康診断や精密検査、治療などのためにやってくる人がいる。

そうした需要を受け、訪日医療をサポートしている在日中国系企業が多数ある。私は中国人の訪日医療、訪日美容(整形、アンチエイジング)、在日中国人向けの医療通訳講座などを手掛ける日本医通佳日社長の徐磊じょらい氏を訪ねた。コロナで往来が少なくなったとはいえ、中国からの問い合わせはかなりあるという。

「日本の高度な健康診断や治療を受けたい中国人は非常に多いです。すでに病気にかかっている方であれば、その方の状況をヒアリングし、医学的な資料や画像データなどを提出してもらって日本語に翻訳。その方に最適な医療機関を探し、セカンドオピニオンを求めます」