追い出し部屋──。陰湿さとやるせなさが漂うその“部屋”の存在が、大々的に報じられたことを覚えているだろうか。
今から10年以上前の2012年の年の瀬。大手全国紙に、当時赤字にあえいでいたパナソニックグループの中に「従業員たちが『追い出し部屋』と呼ぶ部署がある」という文言で始まる記事が掲載された。
当時の私のメモによれば、「100台ほどの古い机とパソコンが並ぶがらんとした室内に、様々な部署から正社員113人が集められ、退職強要とも受け止められる“業務”を課せられている」といった、企業の卑劣なやり方が、その記事には記されていた。
希望・早期退職の名を借りた「リストラ」
会社側は、「新たな技能を身につけてもらい、新しい担当に再配置するための部署。会社として退職を強要するものではない」(広報グループ)と説明したものの、集められた社員の中には、「希望退職するか異動を受け入れるか」の二者択一で配属されたケースもあった。
似たような部署は、ソニーグループ、NECグループ、朝日生命保険などにもあり、「企業開拓チーム」という名目の下、自分自身が社外での自分の出向先を見つけることを「業務内容」としている会社もあったという。
この報道は新年早々話題となり、社会問題に発展。大手電気メーカーや上場企業が、希望・早期退職の名を借りた「リストラ」に踏み切り、募集人数も爆増しているとして社会に衝撃が走り、連日メディアに取り上げられることとなった。
企業批判がいつしか「働かないおじさん」批判に
あの頃の社会にはまだ、企業の卑劣なやり方を戒める空気があった。会社に尽くした社員に、なんてひどいことをするんだ! と。
2008年に発生したリーマンショックの影響を受けて、同年暮れには日本で派遣切りが多発した。複数のNPOなどが日比谷公園(千代田区)に、生活困窮者が年を越せるように「年越し派遣村」を開設するなど大きな騒動となった。その余韻も残っていたため、「今度は正社員まで切るのか!」という怒りが、社会全体で共有された。
しかし、そのうちだんだんと、企業側の問題が働く側の問題にされ、ついには「働かないおじさん」という辛辣かつ失礼な言葉が飛び交うまでになった。
「仕事が残っていても平気で、『もう時間なんで』って帰るんですよ!」
「『そんなにお金もらってないもんね?』って開き直って、仕事拒否するのもムカつきます!」
「こんなこと、なんで俺がやるんだとか、不満ばっかり。もう、やめてほしい!」
「ずっと隣で居眠りされるのも、嫌になりますよ!」
「うちのシニアはコミュニケーション拒否!」
これまで私がインタビューした人たちからは、繰り返しシニア社員批判を聞かされた。